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ミューザ川崎シンフォニーホール
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【講座レポート】再発見!ブルクミュラー

 多彩な講師陣を迎え、音楽の面白さを探求する大人のための講座『MUZAミュージック・カレッジ 2024』がいよいよ開講! 記念すべき第1回「再発見!ブルクミュラー」が10月3日(木)に開催されました。

 ブルクミュラーといえば、ピアノのレッスンで『25の練習曲』を弾いたことがある方も多いのではないでしょうか。今年はブルクミュラーの没後150年のメモリアルということで、10月26日(土)にミューザ川崎シンフォニーホールにて『ホールアドバイザー松居直美企画 言葉は音楽、音楽は言葉Vol.6 ブルクミュラー没後150年 ~ピアノ少年、少女に捧ぐ~』が開催されます。今回の講座は、その公演に出演するオルガニストの松居直美さんと大木麻理さんを迎え、『ブルクミュラー 25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか』(音楽之友社)の著者である飯田有抄さんのナビゲートで進められました。

講座の様子。壇上の丸テーブルを囲んで、講師の飯田ありさ、オルガニストの松居直美、大木麻理が並んで談笑している。

 「アラベスク」や「貴婦人の乗馬」など、素敵なタイトルがつけられた小品が子どもたちの心を掴む『25の練習曲』。

「バイエルやツェルニーは曲に番号がついているだけですが、ブルクミュラーは曲ごとにタイトルがついているので、練習というよりも“曲を弾いている”ような感覚になりましたね。それぞれの曲を弾いていたときの気持ちを、タイトルとともによく覚えています。子どもながらに“せきれいってなに?”と思いながら弾いていました(笑)」(松居)

「母がピアノの先生だったので、幼い頃からお姉さん、お兄さんがブルクミュラーを弾いているのを聴いて、憧れの気持ちをもっていました」(大木)

と思い出を語ってくれました。

知ってるようで知らない、ブルクミュラーってどんな人?

 講座の前半は「ブルクミュラーって誰?」というテーマからスタート。飯田さんの解説でその人生を振り返ります。

ブルクミュラーの肖像画

 ヨハン・フリードリヒ・フランツ・ブルクミュラーは1806年、南ドイツのレーゲンスブルクで音楽家の両親のもとに生まれました。父の死後はアルザス地方などを転々としながら、ピアニスト、チェリスト、音楽教師として生計を立てていました。

 そして、1832年(26歳)にパリに移り住みます。当時のパリといえば、リストやショパンが花形ピアニストとして活躍しはじめ、エラールやプレイエルといったピアノ製造業が発達していった時代。フランス革命後の市民の家庭にもピアノは豊かさの象徴として普及し、良家のお嬢様教育の必須アイテムとなっていました。そこで必要とされたのが、誰もがやさしく弾けるピアノ曲の楽譜と、それを教えてくれる先生です。そういった時代のニーズにぴったりマッチしたのが「作曲家・ピアノ教師ブルクミュラー」だったのです。

 「ブルクミュラーは時代の風を読むのが上手だったのでしょうか?」という飯田さんの問いに、「世渡り上手というよりも、人に何かをしてあげたい性格だったのかもしれませんね」と松居さん。たしかにブルクミュラーは、人前に出て華々しくパフォーマンスするよりも、裏方志向が強かったようです。稽古伴奏者としてバレエの世界に関わるようになったブルクミュラーは、バレエ音楽の作曲家としても名を馳せました。

 ここで、ブルクミュラーが作曲したバレエ音楽を映像とともに鑑賞。バレエ『ジゼル』はアダンの作曲として知られていますが、じつは第1幕の「村人のパ・ド・ドゥ」はブルクミュラーが作曲したとのこと。さらに1843年にはブルクミュラー自身が全2幕の音楽を手がけたバレエ『ラ・ペリ』が大ヒットしました。ブルクミュラーのバレエ音楽について、「しっかりとした構成感があって、オーケストレーションが巧みですね」と飯田さん。松居さんは「『25の練習曲』にも通じるようなメロディ感がありますね」と感想を語り合いました。

 パリで活躍したブルクミュラーでしたが、晩年はパリ郊外のエソンヌ県の小さな農村でひとり隠遁生活を送りました。飯田さんが村を訪ねたときも、お墓がどこにあるかさえわからなかったとのこと。まだ知られていないことは多そうです。

『25の練習曲』タイトルをめぐる謎

 ブルクミュラーは、作品番号つきのもので113曲、作品番号のないもので300曲以上の曲を残し、その大半はサロン風のピアノ曲でした。おなじみの『25の練習曲』Op.100は1851年(45歳)に出版され、「小さな手を広げるための明解な構成と運指」という副題がつけられています。「アラベスク」「バラード」「スティリアの女」「タランテラ」「舟歌」といったタイトルからは、小さな手の子どもたちにもロマン派らしいスタイルのピアノ曲を弾かせてあげたいというブルクミュラーの想いが伝わってくるようです。「練習曲として感じさせないところに愛を感じますね」と大木さん。

壇上で話す飯田(左)、松居(真ん中)、大木(右)の3名。目からうろこの話に、興味が尽きない対話が広がった。

 続いては、『25の練習曲』のタイトルにまつわる謎ときタイム。たとえば、曲集のなかでも人気の高い第25番「貴婦人の乗馬」は、出版社によって「乗馬」となっているものもあり、原題を調べると「La chevaleresque」とあります。chevaleresqueは「騎士の」という意味なので、いったい「貴婦人」はどこからきたのでしょう?!
このように原題と日本語のタイトルには多くの相違がありますが、「だからといって貴婦人がいなくなっちゃうのはさみしい!」と飯田さん。戦前から日本で出版されていた『25の練習曲』が、昭和のピアノブームで一気に広まり、誰もが親しむ練習曲集になったのですから、これも日本の文化と言ってもいいのかもしれません。

オルガン2台によるブルクミュラー

 休憩をはさんで後半は、3人に加えて作曲家の松岡あさひさんをお迎えして、10月26日の『ホールアドバイザー松居直美企画 言葉は音楽、音楽は言葉Vol.6 ブルクミュラー没後150年 ~ピアノ少年、少女に捧ぐ~』公演についてじっくり語っていただきました。

作曲家、ピアニストの松岡あさひも壇上のテーブルに加わり、ブルクミュラーの想い出を語った。

 この公演は、なんといっても『25の練習曲』全曲を2台のオルガンで演奏するところが最大の注目点。

「きっかけは大木さんとふたりで出演したオルガンのコンサートでした。2台のオルガンでブルクミュラーを弾いてみたら、ピアノとはまた違う表現ができて面白かったんです。先ほど聴いたように、ブルクミュラーはオーケストレーションにも長けていましたから、一台でオーケストラの役割を果たすとも言われるオルガンで演奏することによって、作品から管弦楽的な性格を引き出すことができたのではと思います」(松居)

それを受け、大木さんも

「今回はピアノ連弾用に出版された楽譜を使います(編曲:ハンス・フランク)。オルガンでさまざまな音色の可能性を探っていくなかで、ブルクミュラーが思い描いていた音楽の可能性が、よりはっきり見えるようになったかもしれません」(大木)

ますます演奏を聴くのが楽しみになるコメントです。

 2台のオルガンは、ミューザ川崎シンフォニーホールのシンボルとも言える大オルガンと、小型のパイプオルガンであるポジティフ・オルガン。ステージ上で大オルガンを演奏することができるリモートコンソールを使うことで、ふたりの息の合ったアンサンブルができるのだそうです。「響きのよいホールなのでポジティフ・オルガンもよく響いて、大オルガンと対等に対話できると思います」と松居さん。

2台オルガン&オルガン連弾でのブルクミュラーチラ見せ👀動画再生リスト

 さらに今回は、松岡あさひさん編曲によるシューマンの『子供の情景』全曲と、メンデルスゾーンの『無言歌』から「甘い思い出」「春の歌」を2台のオルガンの演奏で聴くことができます。

 「シューマンはきわめてピアノ的に作曲しているので、足してもいけない、引いてもいけない作品をオルガンに編曲するのはなかなか大変でした。でも、オルガンはピアノと違って音が減衰していくことがないので、存分に歌えるんです。シューマンが歌曲をたくさん書いた“歌の年”の数年前に書かれた『子供の情景』で、シューマンの歌をオルガンで再現したいですね」(松岡)

 そして講座の最後は、ピアノとオルガンのぜいたくな聴き比べ企画。ブルクミュラー『25の練習曲』から「アヴェ・マリア」を、最初は松岡さんのピアノで、次に松居さんのポジティフ・オルガンで聴きました。
「オルガンで弾くとコラールのようにも聞こえますね」
という松岡さんの言葉どおり、教会の小さな聖堂にいるような気分になり、ピアノとはまた違ったカラーを味わうことができました。

ピアノで「アヴェ・マリア」を弾く松岡。舞台下手(左側)に置かれたピアノで演奏した。
ポジティフオルガンを弾く松居。オルガンは舞台上手(右側)に設置された。

ピアノとパイプオルガンでの聴き比べ動画

 ブルクミュラーという作曲家の魅力を深掘りし、さらにオルガンによる新たな可能性を聴かせてくれた今回の講座。公演がますます楽しみになりました!

取材・文:原典子(音楽ジャーナリスト)

ホールアドバイザー松居直美企画 言葉は音楽、音楽は言葉Vol.6
ブルクミュラー没後150年 ~ピアノ少年、少女に捧ぐ~

ホールアドバイザー松居直美企画 言葉は音楽、音楽は言葉Vol.6 ブルクミュラー没後150年 ~ピアノ少年、少女に捧ぐ~ 2024.10.26(土) 14:00開演(13:15開場、13:30~13:45プレトーク) 公演詳細にリンクします

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