外山雄三:管弦楽のためのラプソディ
2017.06.07
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6月の名曲全集は「ラプソディ」の大特集。日本代表は伊福部昭と外山雄三の作曲によるラプソディです。外山雄三の「管弦楽のためのラプソディ」は、わずか10分足らずの曲の中におなじみの民謡が代わる代わる現れ、日本人の心を揺さぶらずにはいられない名曲です。使用される打楽器も独特なので、ぜひ演奏会当日は注目してみてくださいね!
実は、演奏回数ナンバー1の作品
楽譜にとらわれず感性で叩く日本のリズム!
東京交響楽団
打楽器奏者 武山芳史
「管弦楽のためのラプソディ」は、最後の「八木節」をアンコールで演奏したり、学校などで行う音楽鑑賞教室の定番の曲でもあって、「第九」や「新世界」よりも、おそらく演奏回数が一番多い作品だと思います。でも今回のように通常の演奏会で取り上げるのは、最近ではめずらしいかもしれませんね。
曲は、「あんたがたどこさ」「ソーラン節」「炭坑節」「串本節」「信濃追分」「八木節」という日本の歌で構成されています。打楽器は、西洋のものはもちろん、拍子木、キン、団扇(ウチワ)太鼓、締太鼓、チャンチキも登場します。これらの邦楽器は楽団が所有していて、「管弦楽のためのラプソディ」用の箱に一式しまってあります。
曲の出だしは、打楽器パートだけでなく、なんと金管楽器パートも拍子木を鳴らします。金管の皆さんは拍子木は専門外ですから、打楽器奏者ほどには音が揃わないかもしれません。でも、その方が味があっていいんです。あまりに揃いすぎると、日本のお祭りっぽくなりませんから。
つまり、この作品は、譜面にとらわれず感性で演奏する曲なんです。たとえば「八木節」を全く知らない外国のオーケストラが楽譜通りのリズムで叩いたらその雰囲気は出ないでしょうが、日本に住んでいれば誰でも自然に叩けます。ウィーンの音楽家がウィンナ・ワルツのリズムを当たり前にできるのと同じですね。「炭坑節」も「あんたがたどこさ」も四角四面なリズムで演奏したら、原曲のようには聞こえないでしょう。「信濃追分」ではフルート・ソロの合い間に鈴を鳴らしますが、聞いた話では、作曲者の外山雄三さんは鈴に対して「譜面通りにやらなくていい」とおっしゃったとか。だから、奏者によって、つまりはオーケストラによって味が変わる作品ともいえるでしょう。
この「信濃追分」での鈴は、どんな雰囲気で鳴らしたらいいのだろう、と考えることがあります。スレイベルを使っていますが、神楽鈴のような音の方が日本っぽくなるかもしれませんね。それから、「信濃追分」のあと「八木節」に入る前の拍子木が意外と難しいんです。拍子木は実はわずかにカーブしていて、その先と先を合わせて鳴らしますが、連続して同じ響きにするには慣れが必要です。
演奏していて一番気分が高揚するのは、やはり最後の「八木節」。音楽鑑賞教室では弦楽器パートが体を揺らして演奏することが多いので、子どもたちも大盛り上がりです。そのほかには、作品の最初、拍子木が鳴るなかに団扇太鼓が登場すると変拍子が入ってくる、この部分がなかなか面白いですね。
日本人なら誰もが知る歌による「管弦楽のためのラプソディ」。オーケストラが奏でる日本の雰囲気を、さまざまな打楽器の音と共に楽しんでください。
「スパイラル」vol.52(2017年4月1日発行号)より転載/取材 榊原律子
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第128回 道義イチオシ狂詩曲
2017年 6月11日 (日) 14:00開演
指揮:井上道義
アルト・サクソフォーン:上野耕平
≪ラプソディ特集≫
シャブリエ:狂詩曲「スペイン」
ドビュッシー:アルト・サクソフォンと管弦楽のための狂詩曲
リスト:ハンガリー狂詩曲第2番
エネスコ:ルーマニア狂詩曲第1番
伊福部昭:日本狂詩曲
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