リヒャルト・シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」組曲
2016.08.28
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R.シュトラウスの作品にはホルンが印象的に使われている楽曲が多いですね。
この「ばらの騎士」もその一つ。冒頭の華やかなホルンが一気にシュトラウス・ワールドに聴衆を誘います。ホルン奏者にとっても、R.シュトラウス作品には様々な思い入れがあるようです。東京交響楽団の大和田浩明さんにお話を伺いました。
ホルンに革命を起こしたシュトラウス
「ばらの騎士」は冒頭からホルンの聴かせどころ満載
東京交響楽団
ホルン奏者 大和田浩明
名ホルン奏者を父に持つリヒャルト・シュトラウスの作品は、それまでの作曲家とは別次元の音をホルンに要求します。たとえば、シュトラウスの音楽にはスラーのついた3連符が次々に登場しますが、こういう細かい動きの場合、単に左手のレバーを動かすだけでは音がはっきりと聞こえないため、1音1音に息をしっかり入れなければなりません。音域に関しても、僕がホルンの最低音に出会った作品はオペラ「ばらの騎士」で(残念ながら今回の組曲には出てこない曲です)、さらに彼の「家庭交響曲」には通常の最高音より上の音が出てきます。父の演奏に身近に接して「吹ける」と思ったからそう書いたのでしょうか。楽譜を見ると、父の偉大さも感じます。
この組曲はオペラから抜粋した作品で、「ばらの騎士」とは婚約の印として銀のばらを渡す使者のこと。ウィーンを舞台に、元帥夫人の若い恋人オクタヴィアン(女性が演じます)が若い娘ゾフィーと本当の恋に落ちる、という物語です。
組曲の最初はオペラと同様、元帥夫人とオクタヴィアンが愛し合う音楽で、ホルン全員が同じ旋律を一緒に吹いて始まります。勇壮ですが、実はその最初の実音シはホルンにとって鳴りにくい音。上吹き(1番・3番奏者)はそのあとに音を伸ばすので、下吹き(2番・4番奏者)がしっかり吹かねばといつも意識しています。こうして協力した結果、セクション全体として上手く鳴ったときはとても嬉しいです。
愛の場面は続き、2人の感情の高まりをあらわす音型が3回登場しますが、この頂点の音はホルンの最高音の半音下で、上吹きの決めどころです。下吹きとしては、この音型に入る前の低音の半音階が演奏しがいがあります。低弦と一緒に音楽を積み上げていく感覚は、下吹きならではの醍醐味です。
“ばらの騎士”であるオクタヴィアンがゾフィーと出会う場面では、ホルンの甘い響きも聞こえます。2人の恋のときめきが甘く歌われるなかで、ホルンも歌い上げるのです。1番奏者に3番奏者も続くところが実に美しいですね。3番奏者は休符のあとに高音が待ち構えているので大変ですが、うっとりするほど甘美な音楽です。
元帥夫人、オクタヴィアン、ゾフィーによる有名な三重唱は、組曲ではワルツのあとに登場します。ここもホルンの聴かせどころで、オブリガートでホルン1人が動くところや、4番奏者が低音を動く箇所もあり、オーケストレーションが実に上手いと思いますし、その音楽に「ホルンで良かった!」としみじみ感じます。
僕がドイツで学んだとき、「シュトラウス節」といえるリズムの吹き方を教わりました。おもしろいことに違う楽器の人も全く同じことを学んでいて、東響に来る外国人指揮者も同じ吹き方を要求する人がいます。シュトラウスは指揮者として活躍し、また戦後まで生きた人ですから、彼が求めた表現が現在もドイツで受け継がれているのでしょうね。今回の指揮者ヴィオッティさんは ウィーンで学んだそうですが、どんなシュトラウスになるか楽しみです。(友の会会報誌「スパイラル」Vol.49より転載/取材:榊原律子)
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第120回 若き精鋭ヴィオッティ渾身のプログラム
2016. 9.4 (日) 14:00開演
指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
ベートーヴェン:交響曲 第4番 変ロ長調 作品60
R.シュトラウス:歌劇「バラの騎士」組曲 作品59,TrV 227
ラヴェル:ラ・ヴァルス
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