佐山雅弘に聞く―サマーナイト・ジャズ、アドリブバトル再び!
2016.07.09
フェスタサマーミューザにも第1回から参加されているジャズ・ピアニストの佐山雅弘さん。
昨年(2015年)にはオルガニスト ルドルフ・ルッツさんと異色の共演で会場は大盛り上がり!
オーケストラ公演よりも紙幅を割いてレビューした音楽誌もあり、強烈なインパクトを残しました。
好評に応えて今年もやります。さて、どんなセッションになるでしょうか・・・!?
――フェスタサマーミューザは、今年で12回目を迎えますね。
僕は1回目から参加していますが、すっかり夏のイベントとして定着しました。クラシックの専用ホールだけれども、クラシックファン以外の方にも来ていただけるように「サマーナイト・ジャズ」を始めたのですが、オーケストラの祭典なのにジャズをやらせてもらえて、とても嬉しいです。今年は、昨年の好評企画第二弾として、バロック音楽の専門家で、即興演奏の天才、ルドルフ・ルッツさんと再共演を果たします。
ジャズとバロック音楽に通じるアドリブの技術
――ジャズピアニストの佐山さんと、バロック音楽の専門家ルドルフ・ルッツさんは、どのようにして出会ったのですか?
オルガニストの松居直美さんから、「バッハの大家だけれどもジャズが大好きで、アドリブも即興もする演奏家がいる」と、ルッツさんをご紹介いただいたのが最初です。
実は、バッハ秘技というのはアドリブが基本です。ですから、ジャズと合わせたら面白いかもしれない、ということでまずは一度お会いしてみることにしました。僕は、ジャズピアニストだから許されるバッハを弾いているわけで、“もしかしたら怒られるかもしれない”と、ガチガチに緊張して会いに行ったんですよ。でも、彼と話してみたらジャズには詳しいし、他のいろんなジャンルの音楽について精通していました。
彼は、今でいうコード譜のような通奏低音のスペシャリストでもあるのですが、低音の動きに合わせて即興するのは200年前からバッハがやっていたことで、「ジャズよりこっちが先だ!」「そりゃそうだ!」なんて、話が合っちゃってね。
彼は人間的にもすごく良い方で、楽しくて、全然偉そうにしないし、とてもオープンなので、すっかり安心しました。
それで、まずはブルースを一曲やろうと言って合わせてみたら、普通にジャズマンとやるように演奏できる。僕が言うのもおこがましいですが、すごく驚きました。そこからは、もう1時間以上、セッションしっぱなしです。楽しくて全然打ち合わせにならない(笑)。
それでも、バッハを中心にジャズも織り交ぜたプログラムを組み立てて、本番を迎えました。彼は公演が終わったその足でスイスに帰ったのですが、翌日にはメールが届いて、「楽しかったからまたやりたい」「ああ、僕もそうだ」なんてやり取りしていたので、また今年も共演できることになり、嬉しいです。
バッハからガーシュインまで多彩なプログラム
――昨年の共演は、息もつかせぬアドリブ合戦と、お二人のアイデアとユーモアが満載で、観客の絶賛を博しました。今回の公演の聴きどころについてお聞かせください。
ルディ(ルッツさんの愛称)がすごく意欲的で、「今年はラプソディ・イン・ブルーをやろう!僕が伴奏するから、佐山がソロパートをやって!」と提案してくれました。
彼は、オルガンだけでなくピアノも堪能で、チェレスタも弾きますから、本番までなにが飛び出すか、誰にもわかりません。ジャズ的なフィーリングもある人ですから、新しいガーシュインを発見できると思います。あの有名な美しいメロディーがミューザのホールにどんな風に響くのか、僕も楽しみです。
あとは、プレリュード合戦をします。ルディがバッハのプレリュードを弾くので、僕はガーシュインの三つのプレリュードを弾いて、対比を楽しんでいただこうと思っています。
また、ガーシュイン作曲のオペラ「ポーギーとベス」を抜粋して演奏します。僕は一番有名な「サマータイム」くらいしか知らなかったので、今スコアと首っ引きで譜面を書いているところです。
更にオペラつながりでモーツァルトの「魔笛」も演奏しますので、すごく盛りだくさんなプログラムです。昨年は最大の課題だったバッハが、一番楽なメニューになっちゃった(笑)。
1年前の出合頭のセッションから、今年は一歩進んだお互いのアレンジを見ていただけるのではないかと思います。
皆で一緒に盛り上げているフェスティバル
――首都圏で活躍するオーケストラを日替わりでミューザに呼ぶという、この音楽祭の意義についてどのようにお考えですか?
やっぱり、音楽という狭い世界のなかで、皆が仲良く盛り上げていることが素晴らしいと思いますし、大きな意義なんじゃないかな。
当たり前のようで、今までこんな機会は無かったと思いますよ。それがこの川崎から始まったというのが、また良いですね。こういうことを様々な場所でやりたいし、世界的にもやってほしいですね。持ち回りで世界中のオケが出演なんていうのも楽しそうだな。サッカーの大会には、イランもアラブも出場しますね。音楽の世界でも実現できたらと思います。それこそ国境を超えてね。
僕は出演もしますが、毎年観客として足を運ぶことを楽しみにしています。各オーケストラが、それぞれ得意なレパートリーや指揮者を持ち寄ってきますから、このオーケストラは重たい音がするなとか、こっちは軽やかな音だなとか、音色の違いがだんだんわかるようになってきました。こうして、回り回ってクラシックと一緒にできるようになって、本当に面白いです。ジャズだけやっていたのでは分からなかった視点が生まれました。
垣根を超えて聴いてほしい
――クラシック公演が目白押しの音楽祭で、ジャズ公演を行うことの意義と意気込みについて、お聞かせください。
音楽に垣根はありません。ジャズは、20世紀に生まれてから既に100年を超えて、十分クラシック化しています。いわゆるクラシック音楽だって、平均律が確立してから300年くらいの歴史でしょう。ジャズとクラシックはだいぶ接近していて、最近はそこにロックが近づいていますね。
ジャンルの垣根を超えて聴き比べるのはとても良いことだと思います。ベートーヴェンやブラームスがあって、ストラヴィンスキーがあって、デューク・エリントンや、カウント・ベイシーもある。ジャズは、もう十分仲間に入れてもらってもいいんじゃないかと思っています。
あと、これは僕の実体験ですが、狭いライブハウスよりも、ミューザ川崎の2000人入るコンサートホールのほうが音は通るんですよ。PAを使わない生音がね。
ホールで演奏することによって自分たちの音楽の本来的な良さが分かると思いますね。
ミューザに呼んだジャズミュージシャンたちは皆、「俺こんな良い音していたかな」と大喜びです。一緒に演奏していても、彼らのソロの間合いがライブハウスでやるときと全然違います。普段だったら音を矢継ぎ早に重ねるところを、出た音を聴いて、その響きがなくなってから次のフレーズを奏でる。すると、ジャズ自体にすごく間合いができて、響きとのコール&レスポンスが生まれるのです。アドリブの音楽だからこそ余計にね。
ですから、あるミュージシャンのファンでミューザに来たお客さんも、いつも聴くその人の音じゃないものを聴ける。実はジャズというのは高尚な、すごい音楽なのだというのがわかってもらえると思います。
本来の楽器の音で、好きなジャズが聴けるというのは、お客さんにとっても、ジャズマンにとってもこたえられないことだと思いますよ。(かわさきアート・ニュース H28.7月号より再掲)
佐山雅弘 Masahiro Sayama
国立音楽大学作曲科在学中より音楽活動を開始。1984年から現在までリーダー作として19枚、PONTA BOXとして11枚のアルバムをリリース。美しさと激しさが渾然となったピアノプレイとともに、作・編曲家として、音楽監督としての活躍も高い評価を受けている。
トリオでの活動のほか、編曲も含むオーケストラとの共演、ジャンルを横断するセッション、講座など、ますますその活躍の場を広げている。
ミューザ川崎シンフォニーホール・アドバイザー。昭和音楽大学特任教授、名古屋音楽大学客員教授、国立音楽大学応用演奏科非常勤講師。
ルドルフ・ルッツ&佐山雅弘
~大好評!サマーナイトジャズ・セッションII~
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