仲道郁代が語る―クーラウ「ピアノ協奏曲」(8/7 日本フィルハーモニー交響楽団)
2016.07.08
8月7日の日本フィルハーモニー交響楽団の公演では、クーラウの知られざるピアノ協奏曲を取り上げます。
ピアニストの仲道郁代さんもご存じなかったというこの曲。
公演に先立って、仲道さんにお話を伺いました。(取材・文=長井進之介)
クーラウの作品は、「ソナチネ」など子どものための曲集では有名ですし、私も弾いたことがありますが、演奏活動を始めてからは彼の作品に取り組む機会はありませんでした。ですから、今回オファーをいただいた時は、クーラウがピアノ協奏曲を書いていたことを知らなかったこともあり、とても驚きました。実際に「知られざる」作品のようで、楽譜を手に入れようと思って調べてもなかなか手に入らず、とても苦労したくらいです。
ベートーヴェンとソックリ! な協奏曲
どうにか手に入れた楽譜を見てみると、さらにビックリすることが起こりました。ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第1番」のアイディア、調性の変化など、今の時代だったら「真似した」と言われてもおかしくはないほどに似ているのです!
特徴的なのがペダルの指示。ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第1番」は、第1楽章の展開部から再現部へと移るところで、ペダルを踏みっぱなしにして濁った響きを作る部分があるのですが、クーラウの協奏曲でも同じような指示が行われていました。
ベートーヴェン - 頑固 = クーラウ!?
弾いていると思わずベートーヴェンの協奏曲にスイッチしてしまいそうなほど似た部分だらけなのですが、テクニックそのものはかなり違うと思います。クーラウの協奏曲はとても軽やかな作品です。分厚い和音が出てくるわけではありません。モーツァルトやハイドン、クレメンティからの流れを汲んだものといえるでしょうか。また、ベートーヴェンの協奏曲が、独奏者とオーケストラの間に有機的なつながりを持って書かれているのに対し、クーラウのものはピアニストの妙技を「魅せる」ことを重視しています。鍵盤を縦横無尽に駆け巡るので、ピアニストの見せ場がたくさんです。また、ベートーヴェンの作風はどこか頑固だったり、あえて「ん?」と引っかかるような部分があったりするのですが、クーラウはいろいろなものが自然に流れていく感じですね。ベートーヴェンから頑固さを抜いたらクーラウになるといえるかもしれません(笑)。
ファミリーのようなオケと「未知の旅」へ
日本フィルハーモニー交響楽団は、私が演奏活動を開始した頃からご一緒する機会が多いオーケストラで、様々なツアーにご一緒させていただいたり、とても深いご縁があります。団員の皆さんがとても温かいですし、ファミリーのように感じています。これまで演奏してきたピアノ協奏曲は知られた作品ばかりでしたから、ある程度音を想定してリハーサルに取り組んでこられましたが、今回はオーケストラがどのようなサウンドを作ってくるかもまだ読めません。舞台で弾き終わった時に自分が何を想うのかも楽しみですし、マエストロや団員の方々、そして会場にいらしてくださったみなさまと「未知の旅」へと出かける気持ちで、当日を楽しみに迎えたいと思っています。