ベルリオーズ:幻想交響曲
2016.04.14
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フランスの作曲家ベルリオーズの代表作「幻想交響曲」は、ベートーヴェンの死からわずか3年後の1830年に初演された異色の交響曲です。ベートーヴェンの「第九」も合唱を伴った、それまでの交響曲の常識を打ち破る作品ではありましたが、「幻想」のオーケストレーションはそれまでの管弦楽作品と比べて急激に現代的に感じられ、自由な発想に基づいて描かれているように思えます。イングリッシュホルンが初めて交響曲に用いられたのもこの曲。そして、なんと舞台裏のオーボエとイングリッシュホルンが掛け合いをするという斬新な演出もあります。この曲について、東京交響楽団首席オーボエ奏者の荒 絵理子さんにお話を伺いました。
舞台裏のオーボエと舞台上のイングリッシュホルンの掛け合いには工夫が必要
東京交響楽団お首席オーボエ奏者
荒 絵理子
「幻想交響曲」は標題音楽なのでストーリーがあります。恋に破れた芸術家が自殺したものの死にきれず、そのとき見た幻想の中で、彼女を殺した芸術家は処刑され、魔女の宴には変わり果てた姿の彼女がいる、という話。グロテスクな内容ですが、曲はとても明るく、そのギャップがいいですね。
「幻想交響曲」でオーボエといえば第3楽章「野の風景」です。2人の羊飼いが笛を吹きかわすという設定で、オーボエとイングリッシュホルンが掛け合います。でも、オーボエはバンダ(別働隊)で舞台裏、イングリッシュホルンは舞台上で演奏するので工夫が必要です。というのも、舞台上の音は、舞台裏へは壁を通ってくるので、テンポは遅く、音程は低く聴こえるんです。同様に、舞台裏の音も、舞台では遅く低く聴こえます。これで掛け合ったり同じ音を吹くのですから大変です。バンダは、舞台から聴こえてくるテンポや音程は無視して、モニターに映る指揮者の棒に合わせて、音程は通常よりもかなり高めに吹きます。これでちょうどいいんですよ。イングリッシュホルンとはテンポも音程もずれて演奏している感覚なので気持ち悪いし、本当に怖いんですが、「絶対に合っている! 」と自分を信じて吹いています。バンダで唯一楽な点は、自分で音量調節しなくてすむこと。立ち位置を前後すればいいですからね。舞台裏で吹く位置はホールによって違いますが、ステージドアの裏あたりが多いです。
第3楽章以外では、第1楽章に大きいソロがあり、第2楽章では旋律を弾く弦楽器と一緒に演奏しています。「幻想交響曲」に限らず、オーボエは第1ヴァイオリンと一緒に演奏することが多くて、とても大事な役割を果たしています。2番奏者の視点からすると、第1楽章の最後は地獄のようなスポットなんですよ。音が低く、しかも音量は落ちれば落ちるほどいい、という箇所です。オーボエの音域は「ミ」から下が出しづらく、ここでは「ド」まで出てきます。オーボエは発音体が難しいので、低い音を静かに出すのは本当に大変なんです。
オーボエは第1~3楽章がとても神経を使いますが、第4~5楽章は楽しく吹くことができます。第4楽章の「断頭台への行進」は、曲調が明るいので好きです。第5楽章のEsクラ(E♭管のクラリネット)のソロも好きです。「幻想交響曲」はイングリッシュホルン、Esクラ、コルネットが交響曲で初めて登場した曲なんですよね。“オーケストレーションの大家”と言われるベルリオーズのすごさを随所に感じられる曲です。(友の会会報誌SPIRAL Vol.26,2010年 より転載/取材:榊原律子)
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第116回 円熟のモーツァルト&華麗なる「幻想」
2016. 4.30 (土) 14:00開演
【出演】
指揮:飯森範親
ピアノ:中村紘子
【曲目】
モーツァルト:交響曲第5番 変ロ長調 K.22
モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K.491
ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14