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HOME  / ブログ / 「スパイラル」バックナンバー / ベートーヴェン:交響曲第9番二短調「合唱付き」

ベートーヴェン:交響曲第9番二短調「合唱付き」

この曲がまちのあちらこちらから聞こえるようになると、年の瀬を感じます。クラシック音楽の歴史の中で最も人口に膾炙している(であろう)最高峰の名曲、ベートーヴェンの「第九」。毎年毎年聴いているはずなのに、感動が色あせないどころか年を追うごとに涙腺の緩むポイントが早まっている気が・・・。すみません、ついスタッフの私情が入ってしまいました。

さて、今回は70分にわたるこの交響曲の最後の最後で大活躍するピッコロのお話です。東京交響楽団フルート&ピッコロ奏者の高野成之さんに伺いました。

ひたすら待って奏でる行進曲は、まさに「歓喜の歌」
フルート&ピッコロ奏者
高野成之
G11

 「第9」の第1、2、3楽章は大変素晴らしい曲ですね。各楽器がとても活躍するし、オーケストレーションも革新的。第3楽章はこの世で一番美しい音楽のひとつともいわれています。でもピッコロはまったく演奏していません。第4楽章で合唱が歌い始めても、まだ休み。合唱とオーケストラが全音符で音を伸ばしたあと、行進曲が始まって、いよいよピッコロの登場です。
 ピッコロは、そもそも軍楽隊の楽器で、クラシック音楽に使う楽器ではありませんでした。それを最初にオーケストラに取り入れたのがベートーヴェンだといわれています。ちなみに行進曲ではトライアングル、シンバル、大太鼓も登場しますが、これらはベートーヴェンの交響曲では初登場の楽器です。
 そんなわけでピッコロ奏者は45~50分間じっと出番を待っています。そして意気揚々と登場するわけですが、私は元気だけど、みんなは疲労気味。弦楽器の音程は下がり、管楽器の音程は上がってきています。なのでピッコロは、オーボエ、ホルンと次々登場するそれぞれの楽器の状態に合わせて、音程を上げたり下げたり微調整しています。助け合いの心ですね(笑)。
 行進曲というものは本来4分の2拍子か2分の2拍子ですが、ここは8分の6拍子なんですよ。そのおかげで3拍目と6拍目が強調され、前に進んでいく気持ちが強く、普通のマーチよりいきいきした音楽になっています。
 行進曲のあとは、またしばらく休み。最後にテンポが上がるところで再登場し、気分爽快、ストレス発散しながら吹きます。「ひと息で吹いているんですか?」とよく聞かれるんですが、3息くらいですかね。そしてラストの直前、テンポが落ち着くところで弦楽器と一緒に演奏するんですが、ここでやっと「みんなと一緒に演奏できた!」という気分になります。ほかの楽器のパート譜は分厚いのに、ピッコロは2ページしかないんですが、ここがあるから達成感があります。
 「第9」は100回以上演奏していますし、ほとんど覚えていますけれど、いつ吹いても新鮮に感じる曲ですね。この曲に完璧な演奏はありえないです。答えは常に変化するのです。そういう意味で本当に素晴らしい作品だと思います。(友の会会報誌SPIRAL Vol.11より転載/取材:榊原律子)

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