限りのない自由と楽しさ―即興の魔術師 ルドルフ・ルッツ
2015.01.12
スイスの名オルガニスト ルドルフ・ルッツがミューザに初登場!
今回はソロ・リサイタルと「名曲全集 第105回」にご出演いただきます。
その魅力を、ミューザのオルガニストの方々が語ってくださいました!
ホールオルガニスト 近藤岳さん
ルッツさんと言えば「即興の魔術師」。魔法のように指から音が次々に出てくるので、演奏を聴いた人はみんなビックリしてしまいます! 様式に則った即興はもちろん、遊び心が光る即興もお得意。即興は、会場のお客様とのやりとりを通じてその場に初めて生まれます。「トッカータとフーガ」や「四季」がどんな音楽になるかは、客席に座る皆さん次第。バレンタイン・デーにちなんで“愛”の名曲による即興もあります。どうぞお楽しみに!
そして松居直美さんのエッセイ「パイプのひとりごと」でもルッツさんに触れてくださっています。
ホールアドバイザー 松居直美さん
「オルガニストの就職試験」
いわゆるドイツ・バロックの「3B」の時代、オルガニストは教会に就職するために、就職試験を受けていました。当時、音楽家の就職先は教会か王侯貴族の宮廷が主であり、オルガニストにとっての主な活動場所は教会でした。特にプロテスタントの教会でのオルガンの役割は大きく、オルガニストは高い技術を要求されたのです。演奏技術もですが、なんといっても即興の技術の高さが求められました。それは音楽が、行われる典礼に沿うものでなければならなかったからです。歌われる讃美歌の旋律に基づく即興、それもフーガなど、様々なスタイルで。
教会音楽が変化し、オルガニストの役割が18世紀ほど専門的でなくなりつつある今日でも、欧州のオルガニストにはこの伝統がまだ濃く残っています。加えて、典礼のためだけでなく、演奏としての即興も盛んに行われ、オルガニストの技術、着想の豊かさが競われています。この即興というもの、その場の適当な思い付きで行われているわけではありません。プランを立て、覚え書きのメモのようなものを作る人もいます。慣れている即興家はしかし、「ひき出し」をたくさん持ち、優れた瞬発力も持っているものなのです。
そのような優れた即興家が2月にミューザ川崎シンフォニーホールにやってきます。ルドルフ・ルッツ氏。スイス・バーゼルの音楽学校でバロック様式の即興を長年教えてきましたが、そのユニークなレッスンには定評があります。書かれた曲をいかに正確に再現するか、という訓練を徹底的に受ける現代の音楽家は、時として着想力を見失うことがあります。その時の気分や、印象やイメージ、あるいはメッセージを「音」という言葉に乗せて自然に表現する、いわば音楽の生まれる瞬間から音楽をすることは、いわば音楽の根源であり、誰でも持ち得る欲求なのではないでしょうか。ルッツ氏の「マジック」とも思える音楽の紡ぎ方を見ているとそのように思います。そうなると、クラシックやジャズといった垣根は、単なるスタイルの違いでしかなく、垣根ではなくなります。あるのは、限りのない自由と楽しさ、とでも言いましょうか。だから彼のコンサートは、コンサートという概念からはみ出して、聴く者をいつの間にか巻き込んでしまいます。細身のルッツ氏ですが、音楽という宇宙を自由に飛び回る様はマジシャンにも、魔法使いにも見えることがあります。変幻自在の彼と音楽の生まれる瞬間をご一緒に体験してみませんか?
(友の会会報誌 SPIRAL Vol.42 松居直美「パイプのひとりごと 第5回」より)
今回のリサイタルでは、お客様と一緒に作り上げる即興もあるとのことです。音楽が生まれる瞬間に立ち会ってみませんか?どうぞお楽しみに!
ルドルフ・ルッツ 公演情報
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団「名曲全集 第105回」
2015. 2.7 (土) 14:00開演
http://www.kawasaki-sym-hall.jp/calendar/detail.php?id=1331
ルドルフ・ルッツ パイプオルガン・リサイタル
2015. 2.8 (日) 14:00開演
http://www.kawasaki-sym-hall.jp/calendar/detail.php?id=1362
ルドルフ・ルッツ
Rudolf Lutz, Organ
プロフィール
ルドルフ・ルッツ(1951年生まれ)は、バーゼル・スコラ・カントルムで歴史的即興演奏法、バーゼル音楽院では通奏低音を教授している。
1998年~2008年には、チューリッヒ音楽大学で修辞学を指導した。
リヨン国立高等音楽院にも客員講師として招かれている。
ヴィンタートゥール、チューリッヒ、ウィーンで音楽教育を受け、オルガンをジャン=クロード・ツェンダー、アントン・ハイラー、ピアノをクリストフ・リースケ、指揮をカール・エスターライヒャーに師事。
1973年、ザンクト・ガレンの聖ロレンツォ教会のオルガニストに就任。1986年よりザンクト・ガレン室内アンサンブルのリーダーを務め、1986~2008年にはザンクト・ガレン・バッハ合唱団のリーダーも兼務した。
ルッツは、コンサートやワークショップで、歴史的即興演奏法のエキスパートとして活躍している。また、定期的に伴奏ピアニスト、チェンバロ奏者、作曲家としても活躍している。2002年にはオラトリオ『イングリッシュ・クリスマス』を作曲し、ザンクト・ガレンの聖ロレンツォ教会で初演し、高い評価を受けた。
2007年秋にはバッハ・アルヒーフ・ライプツィヒが主催した国際会議「フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディと同時代のヨーロッパ・オルガン文化」に講師、即興演奏で招かれた。2007年と2009年、アンスバッハで開催されている名高いバッハ音楽週間に、コンサート、即興演奏で招かれた。
2006年、J.S.バッハ財団の芸術監督に就任し、演奏団体スコラ・セコンダ・プラティカ(アンサンブル&合唱団)を率いて、バッハの合唱作品全曲演奏に取り組んでいる。
日本へは2011年2月に初来日して以来、2012,13年と毎年訪れ、公演やマスタークラスを行い、いずれも好評を博している。