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ラヴェル:「ラ・ヴァルス」

“渦巻く”表現、グリッサンド、フラジオレット
ラヴェルらしい“コントラバスの技法”に注目!

コントラバス奏者 北村一平

G11

 「ラ・ヴァルス」とは“ザ・ワルツ”という意味で、その名の通り、最初から最後までずっと4分の3拍子の曲です。途中、ワルツでないように聴こえるかもしれませんが、それは“ラヴェル節”の見事さゆえです。
 曲の始まりはコントラバスだけ。しかも3パートに分かれて演奏します。遠くで霧がかったような音を2パートが奏でるなか、1パートが「ミファ・ミファ・」と不気味な雰囲気を醸しつつ、ワルツのリズムをしっかりピツィカートで弾きます(このリズムを「心臓の鼓動」とおっしゃる指揮者もいました)。ラヴェルが書いた楽譜の前文によれば、曲の冒頭は、「ワルツを踊るカップルが、渦巻く雲の切れ目から見える」という場面。「渦巻く」感じ、そして、舞踏会に大勢の人がいるのを遠くから眺める雰囲気を表現するために、ラヴェルがコントラバスを選んだのはさすがです。というのは、コントラバスの音の帯域は、雑踏を表現するのにぴったりだと思えるからです。
 ざわざわした響きが続いたあと、コントラバスにグリッサンド(弦を押さえる指を滑らせて次の音に移動する奏法)が登場します。弦長が長いコントラバスはグリッサンドで表現できるエネルギーが大きいので、ラヴェルは効果的に使っています。2オクターブのグリッサンドになると左手が1メートル近くも移動しますから、その動きは客席から見ると壮観だと思いますよ。
 ワルツの最初のメロディをヴィオラが弾き始めると、「雲がだんだんと晴れ、旋回して踊る人たちでいっぱいの大広間が現われる」という場面になります。景色が開ける感じがするこのメロディの背景で、コントラバスとバス・クラリネットは交互に8連符を演奏しています。3拍子に8 連符を入れるというのは不安定な気もするのですが、逆におしゃれに聴こえてくる、とても好きな部分のひとつです。実際演奏するときは少しドキドキしますが……(笑)。
 音楽は盛り上がってffになり、「大広間のシャンデリアが輝いて」最初の頂点を迎えます。ここからは、ヴァイオリンなどによる華やかなワルツのメロディを聴きながら、コントラバスはリズムを刻んでいきます。その中で、ラヴェルらしい音だな、と思うのは時々登場するフラジオレット(弦を指板まで押さえず、表面に触れて弾く奏法)。たとえば、1拍めはA(ラ)の音を普通に弾き、2拍めをフラジオレットでオクターブ上のAを弾くところなどは、1 拍めの響きの中から1オクターブ上の倍音をとり出す感じの響きで、セクシーにも聴こえると思います。
 「ラ・ヴァルス」は、ディアギレフ率いるバレエ・リュスのために作曲した作品ですが(しかしディアギレフには、曲そのものは評価されるも、受け取りは拒否されました)、とても色彩的で、踊らなくても音からワルツの全ての情景が伝わってくる曲です。11月、指揮者の高関さんがこの曲をどう描くか、とても楽しみです。
(2014年10月発行 SPIRAL vol.42より転載/取材:榊原律子)

今後の「ラ・ヴァルス」演奏会情報

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第120回 若き精鋭ヴィオッティ渾身のプログラム

2016. 9.4 (日) 14:00開演
指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ

ベートーヴェン:交響曲 第4番 変ロ長調 作品60
R.シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」組曲 作品59,TrV 227
ラヴェル:ラ・ヴァルス
公演詳細はこちら

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