本文へ
  • English
ミューザ川崎シンフォニーホール
menu

ブログBlog

HOME  / ブログ / 「スパイラル」名曲のツボ / デュリュフレ:レクイエム【大木麻理/ミューザ川崎シンフォニーホール ホールオルガニスト】

デュリュフレ:レクイエム【大木麻理/ミューザ川崎シンフォニーホール ホールオルガニスト】

聴けば聴くほど味わい深い
“いぶし銀”のレクイエム

大木麻理さんプロフィール写真
ミューザ川崎シンフォニーホール ホールオルガニスト大木麻理 ©Takashi Fujimoto

取材・文:榊原律子

フランスの作曲家モーリス・デュリュフレ(1902~86)は完璧主義者だったそうで、出来が完全に満足できた作品しか世に出しませんでした。その作品数は、作品番号で数えると14作だけ。その中で最も有名な作品が「レクイエム」(1947年作曲)です。約半世紀前に書かれたフォーレの「レクイエム」と比較されることが多いですが、見えてくる音世界が全く違います。キラキラきれいな響きのフォーレに対して、デュリュフレは“いぶし銀”。グレゴリオ聖歌を引用して作曲されていて、聴けば聴くほど味わい深い作品です。私のお葬式のときに流してほしい「レクイエム」はデュリュフレですね。そのくらい大好きな作品です。

「レクイエム」にはフル・オーケストラ版、室内オーケストラ版、オルガン版と3つの版があり、「名曲全集」で演奏するのはフル・オーケストラ版です。以前オルガン版も弾いたことがありますが、とてつもない難曲でした。フル・オーケストラ版のオルガン・パートは、物足りなくもなく、出すぎもしない、という絶妙さ。技術的には初見でも弾けるようなシンプルな楽譜ですが、オルガンがオーケストラや合唱の響きを補充する重要な役割を担っています。デュリュフレは名オルガニストでしたので、楽器をよく知る彼だからこそ書けるオルガン・パートになっています。

オルガンが登場するのは第2曲「キリエ」から。出だしは美しすぎて、毎回演奏しながら涙が溢れそうになります。オルガンは合唱と同じ動きをしますが、どう演奏すべきか——合唱の支えとなるよう響きを一体化させるのか、それともオルガンと合唱を対等に響かせるのか——ノットさんの解釈が楽しみです。

第3曲「ドミネ・イェズ・クリステ」は変拍子で拍が取りにくいのですが私は好きな曲で、最後のホルン・ソロも素敵です。途中、オルガンと合唱だけになる箇所もありますが、ここでのオルガンの音色の指示(使用するストップの指示)が“ガンバ”と“ヴォワ・セレステ”という揺れのある弦楽器的な音色。合唱の響きを支えるため、人間の声にない音色を加えるという絶妙な音色の選択がデュリュフレの技です。

オルガンの音色の指示に迷いがないと感じられるのは第5曲「ピエ・イェズ」もそうで、指示に従えば美しい調和が取れるようになっています。なお「ピエ・イェズ」の独唱はフォーレだとソプラノですが、デュリュフレはメゾ・ソプラノというのが“いぶし銀”ですね。

第8曲「リベラ・メ」では、中間で「ディエス・イレ」の躍動的な音楽になるのが痺れますね。ここでオルガンが登場するとき、楽譜にはバスに「レ」と「ラ」の重音が書かれています。つまり、両足を使って足鍵盤を弾く指示です。これはオルガニストでなければ出てこない発想で、さすがデュリュフレです。

そして最終曲の第9曲「イン・パラディスム」は、まさに天国へいざなわれるような曲です。冒頭、ハープとチェレスタの響きが衝撃的で、初めて聴いたときは驚きました。そして最後、オルガンは右手と足鍵盤で「ファ♯」の音だけを弾きます。しかも足鍵盤は一番長い32フィートのパイプの音です。32フィートは楽譜上の音より2オクターヴ低く鳴る感覚なので、右手の音とはものすごい音程差になります。これは、天国と地上を表しているのかもしれません。この響きは、ぜひ生演奏で体験していただきたいです。

楽譜のイメージ画像

「名曲全集」でオルガンが必要な作品があるとき、東響さんからご依頼いただいて出演が決まるのですが、今回は初めて自分から「弾きたいです!」と東響さんへ名乗り出ました。そのくらい好きな作品ですし、ノットさんがこの曲にどんな魔法をかけるのかとても興味があります。さらに、私がミューザのオルガンでデュリュフレの「レクイエム」を弾くのは初めて。11月の「名曲全集」が本当に楽しみです。

(ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「SPIRAL」vol.82より「名曲のツボ 特別編」)

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第201回

公演詳細はこちら

ページトップへ