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【インタビュー】服部百音さん「丁々発止ほど 楽しいものはない」

フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2024「日本フィルハーモニー交響楽団」公演(8/9)に出演する服部百音さん。幼少から国際コンクールでの受賞歴を誇り、世界各国でのリサイタルと活躍し続けている彼女の、言葉のひとつひとつに真摯に音楽と向き合う姿を感じる力強いインタビュー。ぜひご覧ください。
インタビュー・文:宮本 明(音楽ライター)

ヴァイオリンを持つ服部百音(はっとりもね)

「わっ。今年のモーツァルト、またチャラくなってませんか? こういうの、日本で他にないですよね。毎年すごく楽しみにしてるの!」

フェスタサマーミューザKAWASAKI おなじみの大作家キャラクターを手に笑顔が弾ける。
そんなみずみずしい表情とはある意味対照的に、いつも全身全霊、聴き手の心をえぐる、すごみさえある音楽が服部百音の魅力だ。8月9日(金)日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートではメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を弾く。おなじみの王道名曲のメンデルスゾーンから、新たな魅力を引き出してくれるにちがいない。
じつは彼女と日本フィルは今年2月、楽団が毎年行なっている九州公演でも共演。6都市でメンデルスゾーンを演奏した。

「いわゆる名曲なので、親しまれている一方で、弾くほうも聴くほうも流しがちですよね。でもこの九州ツアーでは、指揮をされた下野竜也さんと、『一回たりとも同じことをしない6回にする』というしばりを作ったんです。毎回、自分たちの頭の中にある理想にどれだけ近づけるか。
一番うれしかったのは、それが団員さんにも伝わって、舞台上のみんなが同じ目的意識を共有しながら音を出していたこと。そして、それがなんとお客さんにも伝わるから、こんなメンコンは聴いたことがない、興奮したと言ってくれる方がたくさんいました。そういう、なにかエネルギーを動かすことができたような反応はこちらにも倍になって還元されるので、忘れられない演奏が6回できました」

連日共演を重ねるなかで、オーケストラとのコミュニケーションもどんどん密接になっていった。

「“ソリストと伴奏オケ”という構図は、私は大っ嫌いなんです。協奏曲って、あの大勢の人たちがそれぞれ自分の意思を持ちながら交わすこまやかなやりとりが感じ取れる、聴いてわかるというのが一番の魅力だし、醍醐味だと思うんです。それが、本当にお一人お一人が意思を持って、私の音に反応してコンタクトしてくれた。
『今日のあそこ、どうだった?』とか聞いてくるんです。
『ばっちりだった!昨日より100倍OKだった!』
『明日はもうちょっとこうしてみる』
『じゃあ私、そこでそっちを見ますね』
『OK!』
次の日、そこで私がニヤッと笑うと、『来たな!』みたいな顔してやってくるわけですよ。その丁々発止ほど楽しいものはないです。人間同士が、人の言葉と音楽の言葉と両方で交わってコミュニケーションが取れたことは私の宝物です」

下野達也指揮、服部百音ヴァイオリンで演奏している様子。
日本フィルとの九州公演での様子(2024年2月)。
オーケストラとの親密なコミュニケーションが回を追うごとに深まった。©山口敦

1975年から続く九州公演は、日本フィルにとって重要な意味を持っている。当時スポンサーを失い自主運営で再出発したオーケストラを、九州各地の市民たちが支えた。

「お客さんが熱いんです。本番のあとのレセプションで直接お話しする機会があったのですが、日本人とは思えないほどの熱量で音楽と向き合うし、素直だし、純粋に音楽を欲してるんだなって。本当に聴きたくて来ている人しかいない。そういう方たちのために音楽はあるなと、このツアーをやってすごく感じました。
ツアーが誕生した背景や、みなさんがどんな思いでつないできたのかもお聞きして、めちゃくちゃ共感したんです。こうやって歴史がつながっていく。素晴らしいですよね。人間同士の熱い思いがしこたま感じられる。21世紀なのに、めちゃめちゃ熱いんです。私もずっとそうあるべきと思って生きたから、ものすごく素敵だなと思いました。微力ですけど、私もできる限りバトンをつないでいきたいと思います」

メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は10歳の時に初めて弾いた。

「その頃はまだ、ヴィルトゥオーゾを探すクセがあったんです。乗り越える山を探す。スキーでいうとコブを探して滑りたいみたいな感じで見ていたんですけど、この曲は技術的にはシンプルなので、その時は頭の中がヒマだな、指がヒマだなと思っていました(笑)。
もちろん、そういうものじゃないですよね。技はメインじゃなく、曲を表現するためもので、トータルでどう伝えたいか。私が当時やっていた練習レベルよりははるかに高い音楽であるということも感じましたし、先生がヴィルトゥオーゾを朝から晩まで弾かせていたのは、どんな曲でもその真髄を伝えられるようにするためのトレーニングにすぎないんだということもわかってきた。そんなふうに意識が大きく変わった曲のひとつでもあります」

指揮は日本フィルの「フレンド・オブ・JPO」(芸術顧問)の広上淳一。10代の頃から共演を重ねて、“お父さん”のような安心感があるという。

「指揮者はお父さん世代の方が多いので(笑)。父性というか、器の大きな感じは、ザハール・ブロン先生と共通するところでもあります。初共演はN響で14〜15歳ぐらいの時かな。そういえば広上さんとはメンデルスゾーンは初めてです。たとえばワックスマンの《カルメン幻想曲》とか、そういう毒素の強い刺激物みたいな曲が多かったので(笑)。
広上さんのお人柄が大好きなんですけど、初共演の時は怖いと思ってました。初めてお会いして、何を言われるかな、何されるかな、じゃないけど(笑)。萎縮して借りてきた猫みたいになっていたのを、ユーモアたっぷりに自然にほぐしてくださったんです。ここはもっとこうなんじゃない?と、私の壁を取り払って、『ここまで行こうよ、行っていいんだよ。自由にやっていいんだよ』と徹底的に。あ、やっていいんだ。じゃあ、行きたいです!って。それをやらせていただいたことがすごく印象に残っています」

サマーミューザは筋金入りのクラシック・マニアから、普段あまりホールに足を運ばないビギナーまで幅広いファンが集まる“フェスタ=お祭り”だ。

夏祭りの装いのバッハとモーツァルトのイラストを手に持つ服部百音。
力強い言葉からは意外なほど、取材時はフレンドリーで、こんなおどけた表情も。

「サマーミューザは私も大好きなお祭りですけど、演奏する側からすると、そこに出す音楽については、お祭りだからどうということはあまり考えません。こういう場でこそ真骨頂を出さないと。サマーミューザは作曲家のキャラクターとか、演奏会の存在自体がユニークで親しみやすいので、それを愛して来てくれている人もたくさんいると思います。だけど、気軽に楽しもうと来た音楽会で、どれだけ本物の感動を味わって帰ってもらえるかどうかは、私たちがいつもと変わらず、なんなら2割3割増しぐらい集中して何かを伝えられるかどうかにかかっているし、それでこそですよね。私たちが最善と思えるものを身を削ってやりますから、それを受けて何か感じて帰っていただけたら。本当にそれに尽きます。こういうふうに感じてくれ、っていうのはちょっと違うかな。
ミューザ川崎シンフォニーホールの本番はいつもすごくテンション上がるんです。舞台と客席に一体感があるし、なんせ響きが大好き。弦楽器にすごくやさしい響きのホールだなと思います。ホールによっては、ヴァイオリンがもごもごしてしまって、楽器の“てにをは”とか“子音”が全然聴こえないこともあるんですが、ここはきっちり分かれて聴こえるんですよ。だからすごく面白い!」

服部百音と日本フィルが、今回もきっと、今まで聴いたことのないメンデルスゾーンを聴かせてくれるにちがいない。

▼8月9日(金)フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2024 日本フィル公演詳細▼

8月9日(金)日本フィルハーモニー交響楽団公演詳細に移動します
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