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【ヴィオラ:青木篤子さんインタビュー】交響曲「イタリアのハロルド」【名曲全集第197回】

主人公ハロルドを演じるのはヴィオラ・ソロ
最後あの世からのハロルドの声をどこで弾くか

青木篤子さんプロフィール写真
©Junichiro Matsuo

取材・文:榊原律子

交響曲「イタリアのハロルド」は、ベルリオーズがバイロンの詩『チャイルド・ハロルド』から着想を得て作曲した作品です。あくまで“着想”なので、詩に忠実に描いているわけではありません。主人公ハロルドはベルリオーズ自身かもしれないし、バイロン自身、あるいは演奏に携わる私たちかもしれない。そんな主人公ハロルドをヴィオラのソロが演じます。私の中のストーリーは「ハロルドは何かを忘れたくて旅に出たけれども忘れきれず、自ら死を選ぶ」。そんな物語を思い描きながら演奏します。

協奏曲ではなく交響曲、とはいえ描写的、でもオペラのように場面が具体的ではない、という不思議な曲です。しかもヴィオラ・ソロは曲が進むにつれて音符の数が減っていく。お芝居に例えると、主役なのにセリフは「……」だらけという感じ(苦笑)。特に第4楽章の終盤10分ほどは何も弾きません。この10分間をどうするか――14年前にスダーン前監督の指揮でソリストを務めたときは、その間に客席を通って舞台上手へ移動。そして最後のソロはコントラバスの後ろで弾きました。というのは、最後のソロはあの世からの声だから、遠くからの音にしたかったのです。移動後はハロルドになりきって死んだ演技までしました(笑)。でもよく考えると、ベルリオーズはダイナミクスの変化で奥行き感を出せる作曲家。たとえ舞台中央で弾いても遠い音に聞こえるのではないか、と今は思っています。ノット監督とはこれから相談しますが、今回は最後も舞台中央で弾くチャレンジをしようと思っています。

“奥行き感”は第2楽章が見事です。オーケストラが巡礼の歌を、ヴィオラ・ソロはハロルドのモチーフを奏でますが、フレーズの絶妙なズレから巡礼の行進とハロルドの距離感がありありと伝わってきます。そして、この曲で私が一番好きな部分が、第2楽章の後半、ヴィオラ・ソロがスル・ポンティチェッロ(駒寄りを弾き、独特な音を出す奏法)で奏でるところです。まるで、そよ風が吹いて揺れる草の音のよう。主人公は風景と同化してしまっています。ヴィオラはオーケストラの楽器の中で最大音量が一番小さい楽器なのですが、絶妙な効果音が得意なので、その場の空気を一変させることができるんです。ベルリオーズのヴィオラの使い方には唸らされます。

ヴィオラを好む作曲家はヴィオラ特有の音色を使いたがります。その音色とは、一番低い弦、C線の音で、これが使われているのが第3楽章冒頭です。この楽章は快活なリズムで始まりますが、これをオーケストラのヴィオラ・パートがC線で奏でています。想像力を掻き立てる音を出せるヴィオラをここで使う、ベルリオーズの絶妙な選択です。そして第3楽章の終盤、テンポはアレグレットになるのに、オーケストラのヴィオラ・パートだけ楽章冒頭のアレグロ・アッサイのまま。音価がちょうど倍で、その違いから生まれる奥行き感もさすがです。

ベルリオーズは楽器それぞれの持ち味をよくわかっていた作曲家。ヴィオラ以外に目を向けると、ファゴットを4本使うというのもユニークです。また、第1楽章ではベルリオーズのハープ愛を感じます。最初にヴィオラのソロが登場するとき、ハープと一緒。2人きりで音楽を語るこの場面も楽しみなところです。

第4楽章は、最初に第1、2、3楽章を回想するという「第九」第4楽章そっくりな始まり方。ベルリオーズのベートーヴェン愛があふれています。そのあと山賊の饗宴となり、極彩色の音楽が展開します。

私の大好きな交響曲「イタリアのハロルド」を、信頼できる東響の仲間たち、そしてノット監督と一緒に弾けるなんて、ただただ楽しみです。ノット監督との音楽作りでいつも感じるのは、無意味な音は1音もないということ。今回も本当に繊細なリハーサルになるでしょうね。

言葉のないドラマをオーケストラで紡ぐベルリオーズ。聴き手が100人いたら100通りのイマジネーションが膨らむ作品だと思います。みなさんもぜひ音のドラマを楽しんでください。

(ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「SPIRAL」vol.80より「名曲のツボ」vol.70)

名曲全集第197回 公演詳細

【日時】

  • 2024.5.18(土) 14:00開演(13:15開場)

【出演者】

  • 指揮:ジョナサン・ノット(東京交響楽団 音楽監督)
  • ヴィオラ:青木篤子(東京交響楽団 首席ヴィオラ奏者) *
  • ヴィオラ:サオ・スレーズ・ラリヴィエール **
  • 管弦楽:東京交響楽団

【曲目】

  • ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」 op.16 *
  • 酒井健治:ヴィオラ協奏曲「ヒストリア」 **
  • イベール:交響組曲「寄港地」

【チケット】

  • S席 ¥7,500 A席 ¥6,500 B席 ¥4,500 C席 ¥3,500
  • *25歳以下当日券:1,000円

公演詳細ページはこちら

The Masterpiece Classics No. 197 Date/Time Sat 18 May 2024 14:00 13:15 Doors open
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