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ミューザ川崎シンフォニーホール
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ヴァイオリニストからの華麗な転身、 異才の指揮者、ピエール・ブリューズ

ピエール・ブリューズ(指揮) インタビュー
(3月2日「名曲全集第195回」出演)

 

 3月2日にミューザ川崎シンフォニーホールで東京交響楽団を指揮して指揮者としての日本デビューを果たすピエール・ブリューズ氏。もともとヴァイオリニストとしてキャリアを積んできた氏だが、現在は指揮者として、世界でもトップクラスの現代音楽演奏家集団、アンサンブル・アンテルコンタンポランと、デンマークのオーデンセ交響楽団の音楽監督をつとめている。そのかたわら、数年前から、チェリストのパブロ・カザルスが創設したプラド音楽祭の芸術監督として、音楽祭のプログラムなどを引き受ける他、これから飛翔しようとしている若い音楽家に積極的に演奏の機会を与えている。そんな氏に日本でのデビューコンサートについていろいろとお話を伺った。(取材・文:岡田Victoria 朋子)

ピエール・ブリューズ © marine pierrot detry

  3月に川崎と神戸で二つのプログラムを指揮して、日本デビューを果たされますが、日本にはすでにヴァイオリニストとして来られているんですね。

 はい。前回は2008年か2009年に所属オーケストラの日本ツアーで来ました。今回は指揮者として初来日となります。前回、非常に洗練された日本の文化に触れ、また日本の聴衆が心から音楽を愛していることを感じ、強い印象を受けましたので、今からとても楽しみにしています。

 東京交響楽団とのコンサートのプログラムは全てフランス音楽ですが、これはブリューズ氏が提案されたのですか?

 そうです。ドビュッシーの『小組曲』はもともとピアノ連弾曲で、オーケストラ版は演奏の機会が比較的少ない曲です。円熟期のドビュッシーに比べると「かわいい」ドビュッシーと言えると思いますが、私にとっては小さな宝物のように感じられる音楽です。オーケストレーションも素晴らしく、子供のような要素が魅力的で、すでに彼特有の音色や音楽的な印象に溢れた作品です。このような小曲で、まず東京交響楽団の知己を得たいと思ったんです。
 次のサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲ですが、私はヴァイオリニストでしたので、私自身、ソリストとしてこの曲を何度も演奏しました。ただ、指揮するのは今回が初めてなんですよ! この曲にはサン=サーンスの魅力がいっぱい詰まっています。ヴァイオリニストにとっては(聴衆にとってもですが)、一種の「ヒット曲」で、絶対に一度は演奏したいと思う名曲です。テーマをはじめ、彼の優れたメロディー感が存分に発揮されていて、その上、オーケストラを自在に操る書法がこれまた見事なんです。フランス音楽独特の音色も素晴らしく効果的です。

 交響曲第3番「オルガン」は音楽ファンにはとても人気ある曲です。

 19世紀当時、交響曲は至極ドイツ的な音楽と考えられており、フランスではあまり盛んに作曲されていませんでした。サン=サーンスは、フランクやショーソンに先駆けて、交響曲というジャンルに興味を示し、その伝統を継承しながらも、形式に改革を加えて新しい境地を開きました。(筆者注:交響曲第1番の初演は1853年、第3番は1886年)この曲も、4楽章のようではありますが、2楽章ずつが一体となった2楽章構成です。彼は伝統的な音楽語法に留まりながらも、形式などで伝統を破る革新を次々と打ち出していきました。3番は大オーケストラでよく響くように書かれていますが、「音の科学」とでも言いましょうか、音の扱いが非常に上手く、響きすぎるということがありません。ただ、このような大きな響きを滑稽なものにならないように演奏するには、オーケストラの力量が多分にものを言います。ハ短調の曲の真ん中で現れる変ニ長調のテーマは、音色という意味では全く独特です。私は音の「色」に強い興味を持っているのですが、このような音色を日本のオーケストラと探求できるのを楽しみにしています。

©Victoria Okada

 このシンフォニーのクライマックスは、最終部分でパイプオルガンが壮大に鳴り響くところですね

 パイプオルガンという楽器は、宗教的な伝統を彷彿とさせます。フランスには、各地の教会にある素晴らしいオルガン(特に南仏トゥールーズは名器がたくさんあることで有名です)の伝統が今でも深く息づいており、その響きは、人々の耳に馴染みあるものなのです。パイプオルガンは、神秘的な、精神性を備えた楽器である反面、偉大なものも表現します。そして、多くのストップで無限の音色を作り出すことができます。オルガン付き交響曲で、パイプオルガンの音がホールいっぱいに荘厳に響き渡るところは、何度聴いても震えるほど感動します。

  聴いている方は鳥肌がたちますが、オケで弾いていてもそうですか?

 もちろん! オーケストラはすでに大規模ですが、オルガンの力強く厳かな音はそれを凌駕するもので、オーケストラ全体がしびれて麻痺したような感覚に陥ります。サン=サーンスの音楽は、ともすれば大仰だと思われるきらいもありますが、私自身はとても愛着を持っていて、偉大な作曲家だと思っています。ただし、演奏の仕方、聴き方によってその評価は大きく変わります。

ヴァイオリン:MINAMI(吉田南)

オルガン:大木麻理(ミューザ川崎シンフォニーホール ホールオルガニスト)©Takashi Fujimoto

 プログラムは19世紀後半の曲を集めたものになっています。

 19世紀から20世紀にかけて大きく変動した時期は、音楽史上もっとも興味深い時期の一つです。ドビュッシーもサン=サーンスもこの時代を生きた作曲家です。当時、様々な様式が絡み合い、新しい語法が生まれました。芸術の都パリでは、音楽だけでなく絵画や文学などでも新しいものが次々と創り出されました。この時代にコンサートで演奏されていたのは、ほとんどが「現代音楽」だったのです。東京交響楽団とのコンサートのプログラムも、そんなダイナミックな時代のパリで生まれた曲ばかりです。その雰囲気を存分に楽しんでいただければ嬉しく思います。

 最後にヴァイオリンから指揮に転向した経緯をお聞かせ頂けますか。

 音楽家の家庭に生まれた私は、4歳の時にすでにバッハのブランデンブルグ協奏曲を聴きながら指揮の真似事をしていたんです。その後ヴァイオリンを習い始めましたが、ずっと自分の道は指揮だと思っていました。ただ、その夢はあまりにも貴重なものだったので、叶えるのには時間がかかりました。2010年、トゥールーズ室内管弦楽団でコンサートマスターをしていた時、モーツァルトの交響曲を指揮する機会がありました。そのコンサートは映像に収録されていて、そのビデオを、数多くの有能な指揮者を排出している有名なフィンランドの教師ヨルマ・パヌラ氏のもとに送ったんです。すると10日後に「君は今後指揮者だ。すぐに私の元にいらっしゃい」という返事がきたんですよ! 次の日、コンサートマスターを辞任し、10年間のプロ生活をやめて再び学生になる準備をしました。すでに家庭を持って子供もいたので経済的に大変でしたが、やらなかったことを後悔するより思い切ってやってみようと決めたんです。そして今、世界中のオーケストラを指揮させていただいています。自分は運が良かったと思いますが、その運を逃さなかったから子供の時の夢を叶えられたのだと思っています。

 氏がインタビューの間中ずっと口にしていたのは「音色」という言葉だった。日本でのデビューコンサートではどのような「音色」を聴かせてくれるのか、大いに期待したい。

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