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現代のオルガン、そして日本のオルガン界について―オルガンビルダー横田宗隆インタビュー 4(最終回)

2月19日(土)14時開演のホール・アドバイザー松居直美企画「セザール・フランク生誕200年 メモリアル・オルガンコンサート」をより楽しむためのインタビュー企画。ミューザのパイプオルガンの調律や定期的なメンテナンスをしてくださっている、オルガンビルダーの横田宗隆さんにお話を伺っています。
今回は、現代のオルガンや日本のオルガンについて語っていただきました。
(取材・文:ミューザ川崎シンフォニーホール)

※前回までの記事はこちら
オルガンの原点と技術革命―オルガンビルダー横田宗隆インタビュー 1
カヴァイエ=コルの楽器の特徴 ―オルガンビルダー横田宗隆インタビュー 2
フランス革命からの復興期、アリスティド・カヴァイエ=コルの生きた時代 ―オルガンビルダー横田宗隆インタビュー 3


横田さんによるパイプの調整作業を見守る松居直美さんと大木麻理さん

カヴァイエ=コルの後のオルガンの発展の変遷、日本のオルガン界について

音楽的な傾向としては、19世紀後半から20世紀にかけて、ロマンティックでシンフォニックな曲想にふさわしい楽器と同時に、古典的なものを復興しようという動きが世界的に起こりました。ネオ・ロマンティシズムの作曲家はそれにふさわしい楽器で音楽を書き、反対にバロックの音楽に回帰しようとした人たちは18世紀のスタイルの音を備えた楽器を求めました。20世紀前半になるとバロック時代の作品にもロマン派の作品にも対応可能な折衷型のタイプが増え、それが20世紀の楽器の典型の1つになっていきます。ここにミューザのオルガンも分類されるかもしれません。
そして20世紀の後半から、より純粋な形での古典主義が現れてきます。オリジナルの楽器を求め、バロック時代の製法でオルガンを作る制作家や、バロック時代の作風に則って新しく作曲する音楽家などです。
オーケストラでもひと昔前は全てモダンの楽器で弾いていましたが、今はヘンデルやバッハなどの作品はバロックの楽器で演奏するようになりました。音楽界全体の時代の潮流ですね。

 技術的な進歩による楽器の発展という面では、やはりデジタルの導入による機能拡大が大きいでしょう。
先程コンビネーションの話題が出ましたが、ミューザのオルガンも含め現代の大規模なオルガンでは、コンピューターでストップの設定を記憶させて呼び出すことができますから、様々な組み合わせで何百通りものレジストレーションを用意しておき、ボタンひとつで切り替えられるので大変便利になりました。


ミューザのストップ

また、わたしが音の整音を担当した楽器で非常に面白いプロジェクトがありました。アムステルダムの「オルゲルパーク」というコンサートホールに入っているオルガンです。
ユートピア・バロックオルガン(英語)
音色はバッハが演奏した楽器、バロック時代の音を追及した音作りをしました。
ですが、メカニックアクションの通常のコンソールに加え、完全にデジタルで操作するように切り替えられるようになっているのです。デジタルの方では1音ずつを異なるストップに設定したり、鍵盤の左側が高音域で右側が低音域に設定したり、音色の組み合わせに関することが通常よりも遥かにバラエティに富んで様々なことが可能になります。他にも作曲したプログラムデータを自動演奏する機能もありました。楽器本体に演奏を録音・再生する機能もあり、再生しながらその上に新たな演奏を重ねることもできるようです。
アメリカ、カナダにある楽器と、このオランダのオルガンとをインターネットで繋いで同時演奏セッション…という途方もないようなイベントもしていました。

Hyperorgel Orgelpark: Gebruiksaanwijzing [NL] / Manual [E] from Orgelpark on Vimeo.
ユートピア・バロックオルガンは、バロックの音を忠実に再現した音と、現代のテクノロジーとの融合で今までにない表現が可能となっている

日本のオルガンの特長とは

日本のようにキリスト教会が少なく、かつ小さく、オルガンの歴史が浅い国ではホールに素晴らしいオルガンが沢山作られるようになりました。それは日本の特色だと思います。ミューザのように、こんなにもホールのオルガンがコンサートで1年中フル稼働している状況というのはヨーロッパでは珍しいのです。ホールのオルガンはオーケストラの公演でオルガンが使われている曲、例えばサン=サーンス第3番などを演奏するときに登場するくらいで、オルガンソロのプログラムが組まれることは殆ど無いと思います。

ヨーロッパでは、オルガンの歴史が古いからこそ各地の教会のオルガンに様々な時代の、その土地独特のオルガンがあります。
例えば、同じ街の中でもバロック時代のプログラムのオルガンコンサートを聴きに行く教会、あるいはロマン派時代のプログラムを聴きに行く教会…というのがぼんやりと決まっていて、それはその時代に作られた楽器のある教会を選んでいるからなのです。様々なスタイルのオルガンの特徴ごとに楽しんでいます。

日本の場合は、大規模なオルガンは基本的に教会ではなくホールにあるものですよね。すると、荘厳な迫力のあるオルガンの音を聴こうと思うとやはりコンサートホールでの公演が多くなります。そしてどのホールの楽器も20世紀後半のスタイルが多く、それであらゆる時代のプログラムを演奏しています。もちろん制作家の性格やこだわりなど、楽器に現れる特徴はあります。あるいは、スイスらしい、ドイツらしい…などモデルにした楽器やストップ仕様の方向性の基本となる国の特徴も出ますが、どちらかといえば、あらゆるレパートリーにも適応可能な、汎用性の高い楽器がそろっていると思います。
大きなホールのオルガンリサイタル、その中で様々な曲を一度に楽しめるというのは日本独特の良いオルガン文化です。(終)


真夏のバッハⅥ 「大木麻理パイプオルガン・リサイタル」


オーケストラとオルガンの共演で迫力ある音響を楽しむこともできる
東京フィルハーモニー交響楽団(指揮 アンドレア・バッティストーニ)/レスピーギ:「ローマの松」からアッピア街道の松ほか

あとがき

 時代と場所のニーズに応えて現代まで常に進化し続けてきたオルガンは、1台で様々なことが表現できるようになりました。その甲斐あって今でこそ、「1人オーケストラ」と呼ばれることも多い楽器ですが、それを可能にしたのはカヴァイエ=コルの存在があってのことだったのです。
 ミューザのオルガンは、カヴァイエ=コルの楽器のようなストリング系のストップも多く備えており、非常にシンフォニックな音楽が聴き映えします。そして「セザール・フランク生誕200年 メモリアル・オルガンコンサート」のプログラムは、ロマン派時代のオルガニストの「オルガンでも交響曲のような曲を演奏したい」という憧れの結晶を詰め込んだラインナップでお送りいたします。
日頃、オーケストラの公演を楽しみにいらしてくださるお客様も、この機会に是非ミューザのオルガンのシンフォニックな響きを体感しにいらしてください!

コンサート情報

2022年2月19日(土) 14:00開演
ホールアドバイザー松居直美企画
セザール・フランク生誕200年 メモリアル・オルガンコンサート
出演:梅干野安未、廣江理枝、松居直美

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