カヴァイエ=コルの楽器の特徴 ―オルガンビルダー横田宗隆インタビュー 2
※オルガンの原点と技術革命―オルガンビルダー横田宗隆インタビュー 1 の続きです。
今回も、ミューザのパイプオルガンの調律や定期的なメンテナンスをしてくださっている、オルガンビルダーの横田宗隆さんにお話を伺っています。セザール・フランクの楽曲を語る上で欠かせない革命的なオルガン制作者、アリスティド・カヴァイエ=コルの楽器にはどんな秘密があるのでしょうか?(取材・文 ミューザ川崎シンフォニーホール)
オルガン制作者 アリスティド・カヴァイエ=コル(1811-1899)
フランスを中心に500以上のオルガンを建造し、
サン=サーンスやフランクら当時の作曲家に大きな影響を与えた
カヴァイエ=コルの楽器の特徴
カヴァイエ=コルのオルガンが今までのフランスのオルガンと異なる点は大まかに4つ挙げられます。
まず、彼以前のそれまでのフランスの楽器の音色の特徴をよく表す記録が残っています。
18世紀前半にアルザス地方のオルガンビルダー、ヨハン・アンドレアス・ジルバーマンが南ドイツ地方の楽器を見たときの感想で、「(当時の)南ドイツの楽器は鳴っているのか鳴っていないのか分からないくらいのデリケートな音量のストリング系の音が多い。自分たち(フランスの楽器)から見ると好ましくない」と言っているのです。
実際、フランスでは19世紀に入るまでストリング系の音のストップはあまり普及していませんでしたが、カヴァイエ=コルはこのストリング系の音に注目しました。
↓(表2)サント・クロチルド教会(パリ)、1859年制作のオルガン仕様 ※赤字がストリング系のストップ。
それから、彼はスウェル(スウェルボックス)という機構を採用しました。パイプ群を箱の中に入れて、その扉のシャッターを足元の操作で開け閉めする機能です。
組み合わせるストップの増減で作る段階的な強弱の変化だけでなく、シャッターの開閉によってなめらかなクレッシェンド、デクレッシェンドが可能になります。扉が開いていれば大きく聞こえ、徐々に閉めていくと小さく聞こえるという仕組みです。
カヴァイエ=コル建造の、モスクワ音楽院のオルガンによる
フランク「交響的大曲」の演奏(演奏:Konstantin Volostnov)
足元の映像に注目!車のアクセルのようなペダルがスウェルです。
この踏み込み方で音量が変化するのがよくわかります。
さらに、彼はバーカー・レバーという機構を採用したことも特徴です。
この時代、楽器に送る空気の風圧を上げて、大きくて厚いふくよかな音を目指すようになりました。ですが風圧を上げることで鍵盤が重く、弾きにくくなってしまったのです。そこで、バーカー・レバーというイギリス人が発明したニューマティック・アクション(空気圧式)の仕組みを取り入れることで、軽いタッチで演奏できるようにしました。
これによりストップ数も増え風圧が高く厚みのある音が出せるということと、弾きやすいタッチを両立させ、当時流行していたピアニスティックでヴィルトゥオーゾ的な音楽がオルガンでも演奏可能になったのです。
最後に、風箱の分割です。
オルガンは、ふいごで起こした風を内部の風箱にためる必要があります。カヴァイエ=コルはその風箱を鍵盤ごとに分けるだけでなく、フルー管とリード管で完全に分けました。
風箱を分けるとは、簡単に言えばオルガンが二つ組み合わされているようなものです。風箱に空気を流したり止めたりする弁をフルー管の風箱にもリード管の風箱にもつけ、足で踏むレバーでONとOFFの操作ができるようにしました。
例えば、あらかじめフルー管でフォンを組み、リード管にも何ストップか用意しておきます。最初はリード管の方をOFFにし、途中でフォルテにしたい時にオルガニストが弾きながら足で操作してONにするとまとめて何ストップかを足すことができます。いわゆるコンビネーションのアイデアを取り入れました。
これは特に足鍵盤で画期的でした。足鍵盤は1つの鍵盤しかありませんから、音量や音色を変化させられる装置は非常に役に立ったわけです。そして手鍵盤でも、それぞれの鍵盤にフルー管とリード管の風箱が分かれていることで、コンビネーションが格段に豊富になりました。
この時代のオーケストラのドラマティックな音楽、オルガンでもそうした効果的なデュナーミクの変化を付けた表現を可能にしたのです。
このように、カヴァイエ=コルはフランス革命以前のフランス古典期時代のオルガンには無かった仕組みを取り入れて、シンフォニックな表現が実現できるようになりました。
コンサート情報
2022年2月19日(土) 14:00開演
ホールアドバイザー松居直美企画
セザール・フランク生誕200年 メモリアル・オルガンコンサート
出演:梅干野安未、廣江理枝、松居直美