オルガンの原点と技術革命―オルガンビルダー横田宗隆インタビュー 1
2月19日(土)14時開演のホール・アドバイザー松居直美企画「セザール・フランク生誕200年 メモリアル・オルガンコンサート」をより楽しむためのインタビュー企画、第2弾。今回は、ミューザのパイプオルガンの調律や定期的なメンテナンスをしてくださっている、オルガンビルダーの横田宗隆さんにお話を伺いました。
楽器の作り手ならではの視点からめくるめくオルガン文化の歴史を紐解きます。
(取材・文:ミューザ川崎シンフォニーホール)
横田宗隆プロフィール
幼少時より初期音楽や古美術に親しみ、とりわけヨーロッパの歴史的オルガンの音に魅せられた。大学卒業後 10 年間、国内外でオルガン製作を修行し独立。その後、アメリカ、スウェーデンの大学において、15-19 世紀ヨーロッパオルガン製作の研究と、それに基づいた新築オルガンの設計、製作を続け、歴史的楽器の修復アドヴァイザーとしても奉職。その間関連事項についての講義、講演、執筆は、欧米、日本において多数。2015 年日本に永住帰国し、横田宗隆オルガン製作研究所を設立。国内外において新築、修復、復元プロジェクトを率いる。東京藝術大学非常勤講師。
(表1)
フルー管 | リコーダーと同じ構造のパイプ。オルガンの基本的な響きを作る。 |
フォン (仏:fonds) |
フルー管の16,8,4フィートの音色の組み合わせ。19世紀以降のフランスではこの組み合わせの響きが多用された。適する日本語の語句はなく、固有名詞としてそのままフォンと呼ぶ。 |
リード管 (仏:anche) |
クラリネットやオーボエのようにリードを震わせて鳴らす構造のパイプ。鋭く特徴的な音色を持つ。フランス語ではアンシュと呼ぶ。 |
ミクスチュア (英:Mixture/独:Mixtur) |
鍵盤1音で、異なる音高のパイプを複数本鳴らすストップ。それらはフルー管で構成された、高い倍音のパイプ列が組まれている。フランス語ではフルニチュール(Fourniture)と呼ぶ。 |
オルガンの原点と、技術革命による楽器の転換点
オルガンの原型はずっと古くから存在しています。すでにローマ時代(紀元前753~後476年)にオルガンはありました。近代のものとは違う形ですが、ふいごとパイプと鍵盤というオルガンたらしめる構成要素、原則は満たした最初期の楽器です。ですが、今のオルガンの形になったのは11~12世紀ごろですね。それからは、我々が想像するオルガンの形で発展していきました。
古代の水オルガン
今の楽器は手鍵盤だと4オクターブ、足鍵盤だと2オクターブくらいの幅が必要ですが、それにつながるようにパイプを並べるとどんどん距離が離れていきます。そのように数メートル先にまでメカニズムを届かせる術が発明されたのが大体13世紀ごろです。それでオルガンをかなり大きくできるようになりました。以降、鍵盤の音域は昔から比べるとどんどん広がっています。
演奏可能な、現存する世界最古のオルガン
(スイス・シオン ノートルダム・ドゥ・ヴァレール教会。パイプの一部が1400年ごろ)
そして15世紀ごろに送風装置の大きな改良があり、非常に風が安定しました。ちょうど同じ頃に安定した風の供給が条件となって、オルガンのストップの中に当時の管楽器の音を模倣したものが取り入れられるようになります。管楽器というと、トランペットやクルムホルン、その他様々なフルート類です。
トランペットやクルムホルンはオルガンのストップとしてはリード管に分類されます。リード管というのは1本でフルー管よりも遥かに大きくて明るい音が出せるため、それまでのようにパイプを何本も鳴らして大きな音を出す必要が無くなりました。
また、ミクスチュアもそれまで10列やそれ以上もあったものが格段に少なくなりました。ミクスチュアの代わりにリード管を使うことで、大きくて明るい音が出せるからです。
しかもただ音量が大きいというだけでなく、このようなリード管をはじめとした管楽器を真似たパイプが増えてくると、バロックオーケストラやルネサンスオーケストラの響きをオルガンで模倣できるようになり、音楽の幅が広がることにもつながりました。
その後はその時代ごとに求められる音楽に合わせられるよう細かな改良が続けられました。そして大きく変わったのが、カヴァイエ=コルの楽器です。19世紀のフランスのことでした。