障害を語ることを恐れないープログラムに込めた特別な思いを語る(指揮者 原田慶太楼)
8月9日東京交響楽団フィナーレコンサートで演奏する「かわさき組曲」には、58名の”作曲者”がいる。それが「かわさき=ドレイク・ミュージック アンサンブル プロジェクト」だ。川崎市内3つの特別支援学校の生徒27名と18名の教員、そして13名の日英音楽家が5月から7月にかけてのべ20回に及ぶワークショップを行った。彼らすべてが作曲家なのである。
障害のあるなしに関わらず、誰もが創造性を発揮できる社会を目指すこのプロジェクトに賛同し、指揮を振るのが東京交響楽団正指揮者の原田慶太楼氏だ。
7月28日に行った本プロジェクトの記者説明会で、原田氏が語った思いをお伝えしたい。
(原田慶太楼さんのコメント)
僕は幼なじみの友人をきっかけに、障害に関心を持ちました。彼は、10歳ごろになって障害があることがわかったのです。
それからずっと、障害のある人に対して僕が何をヘルプできるのか考え、また実践してきました。
大学では音楽のほかに児童心理学も専攻したのもそれが理由です。
障害のある人たちへの音楽家によるボランティア活動にも参加しましたし、オーケストラではゲネプロに障害のある子どもたちを招待したこともあります。彼らは感情を体や声で表すので、どれだけ走り回っても、声を出してもいいよと言って来てもらうのです。障害がある子どもたちに対して、音楽へのアクセスを作りたかった。
差別というものがどういう感情なのかよくわかっています。アメリカで、アジア人差別をまさに経験しているからです。
日本には差別がないと思っている人が多いですが、それは間違っています。障害や差別について、オープンに語ることを避ける方が多いですよね。
語られないから差別がないのではない。むしろその逆です。
ですから、今回のプロジェクトの話を聞いた時にすぐに賛同しました。障害のある人もない人も一つになって音楽をつくるというのは素晴らしいことです。
よくご存じと思いますが、僕はプログラミングに非常に強いこだわりを持っています。
今回のコンサートも、こだわって作りました。
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ヴェルディ:歌劇「アイーダ」から 凱旋行進曲とバレエ音楽
かわさき=ドレイク・ミュージック アンサンブル かわさき組曲~アイーダによる(世界初演)
アダムズ:アブソルート・ジェスト
吉松 隆:交響曲 第2番「地球(テラ)にて」(改訂稿/4楽章版)
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本当は、「かわさき=ドレイク・ミュージック」のプロジェクトは2020年に行うはずでした。
参加した子どもたちも音楽家もオーケストラも、一緒にステージに乗って演奏するはずでした。しかしそれはコロナ禍により叶いませんでした。
昨年は「シェヘラザード」を題材とする予定でしたが、今年は「アイーダ」にしました。
なぜ「アイーダ」か。それは、2021年が初演から150年、そしてヴェルディの没後120年だからです。
そしてこの曲にインスパイアされた「かわさき組曲」は初演です。3つの記念年となるのです。
アダムズの「アブソルート・ジェスト」にはベートーヴェンの交響曲や弦楽四重奏曲のモチーフがコラージュされています。
皆さんお忘れかもしれませんが、ベートーヴェンも聴覚障害者です。ですから、この曲を選びました。
そして最後の吉松隆作曲、交響曲第2番「地球(テラ)にて」。これは、レクイエムの曲です。戦争も描かれます。
この曲を選んだのは、現在、コロナ禍で大勢の方が亡くなっている世界的な状況があるからです。
平和ではないから、平和を大事にしなくてはならない。
今回のコンサートは、おそらく後に、ブレイクスルーの最初の一歩として振り返ることになるでしょう。
障害のある人とない人関係なく、みんなが一つになって音楽を作り、そして特別な場ではなく、通常のコンサートの中の1曲として演奏すること。
障害について語ることをみなさん避けないでください。堂々とやりましょう! たくさんの感動を持ってきたいと思っています。
—7月28日 かわさき=ドレイク・ミュージック アンサンブルプロジェクト 記者説明会にて