【特別対談】フェスタサマーミューザKAWASAKI2020 首都圏のオーケストラ9団体の公演を語る!(後編)
2020.07.31
7月23日~8月10日まで、連日熱いコンサートが繰り広げられる「フェスタサマーミューザKAWASAKI2020」。その大きな目玉は何といっても日本を代表するプロ・オーケストラの競演です。
今回はそのオーケストラ公演に的を絞って、サマーミューザ応援団のお二人に自由に語っていただきました! 後編はこれから始まる8月の公演です。
【対談】
音楽ジャーナリスト 池田卓夫(いけたく本舗)
指揮者 坂入健司郎
※この対談は3月26日に行われたものに修正・加筆したものです。
8月1日 群馬交響楽団
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池田:指揮者の高関健さんは昨年のサマーミューザで仙台フィルとやらかしてくれましたね。アンコールに「悲愴」の第3楽章、ここで存分に拍手してくださいと言って大いに盛り上がりました(笑)
群馬交響楽団は映画「ここに泉あり」で有名になったオーケストラですけれども、演奏能力は高関健さんの時代に大きく飛躍しました。中興の祖である高関さんとミューザで演奏が聴けるのはとてもうれしいですね。最初に予定されたベートーヴェン の交響曲、第9番《合唱付》は合唱と独唱、つまり声楽パートの飛沫感染リスクの解明が遅れているために取り下げられ、代わりに第4番と第2番が演奏されます。高関さんはベーレンライター新版をいち早く反映した交響曲全集の録音を完成するなど、ベートーヴェン の解釈にも定評があります。
坂入:図らずもサマーミューザで「第九」以外のベートーヴェンの交響曲をすべて聴けることとなりました。生誕250周年のベートーヴェン・イヤーに相応しいプログラムとなったのではないでしょうか。とても楽しみです!
8月2日 東京フィルハーモニー交響楽団
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池田:若手時代の1974年から1991年まで東京フィル常任指揮者を務め、現在は桂冠指揮者の称号を持つベテランの尾高忠明が旬の若手ソリスト3人と共演するベートーヴェン の「ヴァイオリン、チェロとピアノのための三重協奏曲」を演奏するのが楽しみです。チャイコフスキーの交響曲も尾高さんの重要なレパートリーで本来なら今シーズン、音楽監督のポストにある大阪フィルハーモニー交響楽団と全曲演奏する予定でした。
坂入:ベートーヴェンの三重協奏曲での素晴らしいソリストは大注目です。ヴァイオリンの戸澤采紀さん、チェロの佐藤晴真さん、ピアノの田村響さんと錚々たる豪華メンバー。 チェロの佐藤さんは、昨年ミュンヘン国際音楽コンクールチェロ部門で優勝されて、私も決勝で披露されたショスタコーヴィチのチェロ協奏曲2番を中継で拝見したのですが、なかなか日の目を見ないショスタコーヴィチの作品をここまで高次元に演奏される人は世界中いないのではないかと、強く感動しました。今回の豪華共演も期待で胸が高鳴ります。
8月4日 新日本フィルハーモニー交響楽団
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坂入:久石さんがレコーディングされたベートーヴェン全集は素晴らしい演奏でした。
池田:指揮の師匠は秋山さんなんですよね。ご自身の作品で映画音楽の大家になられましたが、斎藤指揮法をしっかりと学んだ基礎があり、クラシックの指揮者としても最近は活動の幅を広げられています。久石さんのベートーヴェンはロックだと言う人がいましたが7番はぴったりじゃないでしょうか。
坂入:東響と録音した「春の祭典」の演奏で興味深かった、繰り返すパッセージの聴かせ方や規則的なリズムを変容させていく手腕は、今回演奏するベートーヴェンの交響曲第7番の第1、第4楽章の繰り返すパッセージにおいても、とても面白く聴けるのではないかと思います。
8月6日 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
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池田:3人の全く違う個性のピアニストが競演する、面白いコンサートですね。
坂入:聴きごたえも抜群です。ベートーヴェンのピアノ協奏曲4番と5番をつなげて聴いたらおなかいっぱい!
池田:これはそれぞれが負けられないと思うんじゃないでしょうか? 指揮者の渡邊さん自身もピアニストでいらっしゃるし。
8月7日 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
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坂入:学生だった11年前、2009年のフェスタサマーミューザで飯守先生が指揮されたブルックナーの交響曲第7番のリハーサルを全部見させていただいたんです。そこで見たブルックナーの音楽を作る過程がいま、自分が指揮をする上で血となり肉となっています。そして今年、4番を演奏されるというのはとても感慨深いです。少しマニアックな視点かもしれませんが、過去に聴いたときは第4楽章の終結部にマエストロのある工夫が仕掛けられていました。その工夫によって、より一層神秘的で深い感銘を受けたので、そこにも注目して聴いていただきたいです。
池田:どこか別の次元で繋がっている感じがします。作品自体にものすごく感動している飯守さんの姿が見えるようです。
8月8日 日本フィルハーモニー交響楽団
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池田:梅田さんは指揮者だけでなく、指揮の先生としても多くの優秀な若手を世に送り出しています。ご自身が若手だったころからベートーヴェン、ブルックナーといった王道のレパートリーでじっくりと、味わい深い響きを引き出す手腕にたけた指揮者でした。ベートーヴェンが大バッハの死後たった50年で放った画期的な交響曲の再現者としても、適任でしょう。ベートーヴェン生誕250周年の影に隠れてしまいましたが、今年は武満徹の生誕90周年です。1984年に委嘱者のサイモン・ラトルが当時のパートナー、バーミンガム市交響楽団と世界初演した「虹へ向かって、パルマ」はホアン・ミロの絵に触発された作品で、カタルーニャ民謡の引用も現れます。武満さんは今から半世紀前、1970年大阪万博の会場でミロと出会い、意気投合したとか。今回は日本初演者の佐藤紀雄さんの次の世代に当たるギタリスト、村治佳織さんが武満作品をどう再現するのかも注目です。
坂入:レスピーギとベートーヴェンの作品も、とても楽しみです。リュートのための古風な舞曲とアリアの第3組曲は、忘れ去られていた400年以上前の作品を現代の楽器で演奏できるようにアレンジしたものです。レスピーギは古い音楽のリバイバルを行った重要な作曲家。一方、ベートーヴェンの交響曲第1番は、古い音楽を研究し尽くして、新たな音楽芸術を作り上げた金字塔。「古典の再興」と「革新」、武満さんの作品と合わせて素晴らしいプログラムです。
8月10日 東京交響楽団フィナーレコンサート
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池田:原田慶太楼さんは生まれながらのコスモポリタン、人の心を開く天才です。一方では、お祭り男風に見せながら、ロシアの指揮者たちに学び培った基本スタディはすごい。さらに社会的な視点も持っている。自分が置かれたシチュエーションの中でどのような仕事をすればオーケストラと聴衆がコミュニケーションできるかということを考えている。
東京交響楽団とは日本のオケで一番共演回数が多いはずですよ。3月14日の無観客配信の際にも、お客様とのインタラクティブなコミュニケーションを入れるなど、彼独自のアイデアが満載でしたね。
坂入:オリエンタリズムに影響を受けた作曲家、グリエール作品と、千夜一夜物語の世界を描いたシェエラザードの相性もとてもよいですよね。どちらもハープが活躍するので、要注目です。
池田卓夫さん、坂入健司郎さん、ありがとうございました!