フランスに 移住したかもしれないベートーヴェン ~かげはら史帆のベートーヴェンコラムvol.5~
2020.07.21
『三重協奏曲』を作曲中の1804年。
33歳のベートーヴェンは、ナポレオンに熱い視線を送っていました。
ベートーヴェンより1歳年上のフランスの軍師ナポレオン・ボナパルトは、当時、ヨーロッパ各国を圧倒する快進撃を繰り広げていました。ナポレオンこそが革命精神の申し子であると信じていたベートーヴェンは、彼が皇帝に就任すると知って失望し、捧げる予定だった『交響曲第3番』の表紙を破いてしまったと伝えられています。
しかし、ほんとうにベートーヴェンはナポレオンに心酔していたのでしょうか。最近では、この説はやや疑問視されています。ベートーヴェンが興味を抱いていたのは、むしろ、ナポレオンの台頭によって一躍「勝ち組」にのし上がったフランスの経済状況だったようです。実際に当時のベートーヴェンは、ウィーンからパリへの移住計画も立てていました。この珍しい編成の『三重協奏曲』も、フランスで流行していたスタイ
ル。移住後に発表しようとひそかに考えていたのでしょうか。
最終的にベートーヴェンはウィーンにとどまる道を選びましたが、この協奏曲はウィーンでの初演では、あまり高い評価を得られませんでした。しかしもし彼が本当にフランスに移住していたとしたら、この三重協奏曲は「パリで大ヒットした作品」として音楽史に名を刻んだかもしれません。
(かげはら史帆/ライター)
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かげはら史帆
東京郊外生まれ。著書に『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(柏書房)『ベートーヴェンの愛弟子 フェルディナント・リースの数奇なる運命』(春秋社)。ほか音楽雑誌、文芸誌、ウェブメディアにエッセイ、書評などを寄稿。
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