転機の年のラブレターと交響曲 ~かげはら史帆のベートーヴェンコラムvol.2~
2020.07.21
『交響曲第8番』が作曲された1812年。
41歳のベートーヴェンは、恋人との逢瀬のために馬車を走らせていました。
実はかなり惚れっぽく、若い頃には「遊びの恋」もそれなりにあったベートーヴェン。しかし、1812年に旅先のテプリッツで書かれた宛先不明のラブレターは、相手を「不滅の恋人」と呼ぶほどの本気の恋心にあふれていました。いったいお相手の女性はだれ……?これまで何人ものシンデレラ候補の名前が挙がりましたが、まだ確定には至っていません。
その有名な恋愛劇の直後に書き始められたのが、この交響曲。もちろん、近い時期に書かれたからといって、この交響曲と恋愛感情を安易に結びつけるわけにはいかないでしょう。けれど、ちょうどアラフォーを迎えた「お年頃」の彼が、人生の大転換を目論んで、パートナーになってくれるかもしれない女性との恋と、新しい交響曲の作曲に没頭したのはごく自然な成り行きといえるでしょう。1812年。それは最強とうたわれたナポレオン軍が劣勢に追い込まれ、世の中全体がダイナミックに変化した年でもありました。
残念ながら、ベートーヴェンの恋は実らずに終わりました。しかし『交響曲第8番』は完成し、ナポレオン戦争が終わる直前の1814年2月にぶじ初演を迎えたのでした。
(かげはら史帆/ライター)
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かげはら史帆
東京郊外生まれ。著書に『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(柏書房)『ベートーヴェンの愛弟子 フェルディナント・リースの数奇なる運命』(春秋社)。ほか音楽雑誌、文芸誌、ウェブメディアにエッセイ、書評などを寄稿。
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