ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調―黒沼香恋(ピアノ)インタビュー
2020.03.04
「名曲全集第155回(公演中止・無料配信Liveの詳細はこちら)」に登場するソリストは、「ミューザ・ソリスト・オーディション2017」合格者の黒沼香恋さん。東京藝術大学3年生で、すでにさまざまな演奏活動をしている若きピアニストです。フランス音楽、特にラヴェルを愛する黒沼さんが今回演奏するのは、ラヴェルのピアノ協奏曲。今後さらにフランス音楽を深めたいと将来を描く、伸び盛りの音楽家が東京交響楽団と初共演します。
美しいオレンジ色の第2楽章
この曲と共に人生を歩みました
——黒沼香恋(ピアノ)
黒沼さんがピアノを習い始めたのは3歳ですが、それより前、お母様のお腹にいるとき家で流れていたモーツァルトのソナタを聴いていたため、言葉を話すよりも早く、1本指でそのソナタを再現していたのだとか!そんな生まれながらのピアニスト黒沼さんには「いつか弾きたい!」と長年願っている協奏曲があります。それがラヴェルのピアノ協奏曲です。そう思ったきっかけは黒沼さんのある特殊な感覚が関係しています。
「私には共感覚があるんです。つまり、音から色が見えます。小学5,6年生の頃、初めてラヴェルのピアノ協奏曲を聴いたとき、第2楽章で、とてもきれいで懐かしさのあるオレンジ色が全身にまとわりつく感覚がしたんです。あんなに美しい色を見たのは生まれて初めて。それからこの協奏曲の虜になってしまいました」
そんな第2楽章は、黒沼さんにとって特別な曲になります。
「人生に迷ったときの道しるべとなる曲というか、この曲と共に人生を歩んできた感じです。音楽の道に進むか迷ったときも、高校生のとき失恋したときも、第2楽章をずっと聴いていました」
しかし「懐かしさのあるオレンジ色」は一体何の色なのか……近いと感じたのは、都心から家へ帰る電車から見る夕方の風景の色。ところが2019年の夏、ついにその色の正体を見つけたのです。
「3月の演奏会を前に、作品をあらゆる角度から知りたいと思い、ラヴェルの故郷フランスのサン=ジャン=ド=リュズでのアカデミーに2週間ほど行ってきました。エメラルドグリーンの海がとても美しい町なのですが、そこで見る夕日の色が第2楽章のオレンジ色だったんです!ずっと探していた色がやっと見つかって、とても幸せでした」
ちなみに第1楽章と第3楽章は何色が見えるのでしょう。
「第1楽章は、黄色がはじけて始まり、グリッサンドでは黄色、緑、水色。オーケストラの音楽はキラキラと金色。第3楽章は土っぽい色が見えますが、やはり黄色が強いです」
3月の「名曲全集」は
これまでの集大成に
先ほど「音楽の道に進むか迷った」と語った黒沼さんですが、そもそもプロの音楽家になろうという意識はなかったそうです。
「小さい頃は、色が見たくてピアノを弾いているようなものでした。でも高校1年のときに全日本学生音楽コンクールで優勝して演奏会に呼ばれるようになり、意識が一気に変わりました。自分の考える音楽を人に伝える、そんな音楽作りに変化しました。今、演奏会で最も大切にしていることは、お客様とのコミュニケーションと空気感です。お客様と自分との間の空気を彩るような演奏を心がけています。お客様の反応は色で分かるので、空気が変わる音を出せるようにと思っています」
尊敬するピアニストは、2010年ショパン国際コンクールの覇者ユリアンナ・アヴデーエワです。
「大ファンです。迷いもなく突き進む演奏スタイルが好きですね。私は今、姿勢を直しているのですが、彼女の体の使い方や呼吸の仕方などを見て研究しています。これからも追いかけていきたい存在です」
黒沼さんが鳴らす色を私たちが耳でどう感じるか、本番が楽しみです。
ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「スパイラル」Vol.63(2020年1月1日号)より転載
取材・文:榊原律子
「私の長年の夢が叶う演奏会です。日本でピアノ弾いてきた集大成の演奏になるよう臨みたいと思っています。ラヴェルの故郷で夕日を見たとき、オレンジ色から音も感じました。あの夕日の色を演奏に生かしたいと思っています」
そう語る黒沼さんの趣味はサッカー観戦。ピアノ歴と同じ年数レアル・マドリードのファンで、尊敬する人はジダンとC.ロナウド。特にC.ロナウドは、大切な場に彼のポスターなどをお守りとして持っていくほど大好き。夏のフランスのアカデミー滞在中、念願のマドリードのスタジアムへ一人旅。「ピッチに立ったとき、これがC.ロナウドが見てきた景色なのかと感激のあまり号泣してしまいました!」
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ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第155回
無観客ライブ無料配信「東京交響楽団 Live from Muza!」
2020年3月8日(日)14:00開始
番組URLはこちら:
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv324588340
「東京交響楽団 Live from Muza!」の詳細はこちら:
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/news/detail.php?id=1230
[出演]指揮:大友直人
ピアノ:黒沼香恋(ミューザ・ザ・ソリスト・オーディション)
オルガン:大木麻理(ミューザ川崎シンフォニーホールオルガニスト)
管弦楽:東京交響楽団
[曲目]ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調
サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」