プロダクション・ノート―サラ・マンガノ(パントマイム)
2020.02.15
いよいよ一週間後に迫った、オルガン×パントマイムの新たな美のコラボレーション。
初来日となるフランスの気鋭マイムユニット〈マンガノマシップ〉のサラ・マンガノさんから、今回どのように曲目からイマジネーションを拡げていったのか、その創作のヒントや世界観を教えていただきました。
ぜひ公演前にご一読ください。
プロダクション・ノート
文:サラ・マンガノ(パントマイム)
音楽とマイム、どちらも言葉を介さず物語を紡ぐ芸術である。
音とイメージが、目覚めたままの夢へと導いてゆく。
語られる物語があり、それぞれが独自の意味を見出す。
感情は震えるように高まり、澄んだパルファムのような感覚が私を魅了する。
そんなパルファムのような、瞬時にとらえることのできない感覚は、
私の体に刻み込まれた煌く感情や薄れかけた記憶と同じくらい、
強く私の心を捕捉する。
今回のプログラムでは、各作品にそってメタファー(隠喩)という視点から、
言葉なき詩を作り上げることを試みている。
ときに音楽が意味づけ、そしてイメージが夢の中を彷徨うように練り歩く。
ときにイメージが物語り、音楽がそこに生まれる感情を誇張する。
二つの芸術は互いに交差し、支え合い、
ときに共通の詩的振動の中で宙を翔けぬける。
第1幕:時代(とき)を超えたディアローグ
プログラムの幕開けは、大きな変容を遂げるバロック期。その“変容(メタモルフォーゼ)”という着想をもとに、男性と女性、気品に満ちた人間性と野性に満ちた動物性が対話する。社交ダンスの優雅な趣から、情熱的な抑えがたい感情が露わになる。
〈仮面たちの時空飛行ダンス〉では、バロック・バレエのアントレ(補注:前座のようなもので、短い喜劇であったり悲劇であったり、オペラであったりと様々な形がある)のようなものをイメージしている。短い舞台が、毎回異なったイメージや風景とともに次々と展開されてゆく。それはときに面白おかしく、詩的なファランドールである。
〈空を舞う風、鳥、そして聖霊〉では、空中に漂う神秘的な音楽からインスピレーションを受け、四季を巡る一人の放浪者に命を吹き込む。宙から舞い降りたかのような放浪者のマリオネットが旅する中、“時”と出会い、人間、ともすれば神の記憶を回想する。
第2幕:言葉に秘める音と動き
「3つの舞曲」では、“残像(レマナンス)”を表現する。相手に残した自身の痕跡、相手が自身に刻み込んだその痕跡の残滓(ざんし)。思い出が、肌で感じるほどの存在感を持ち、私を形作り、そして導いていく。「喜悦」、「愁傷」は混じり合い、失われた命への情に溺れまいと「闘争」する。
「オルガンのための詩曲」では、仮面が、生命の糸を紡ぐ寓意的な人物像となっている。希望へと続く延々たる道の上に、死への糸、生への糸は常に危うく交差しているのだ。
* * * * * * *
ホールアドバイザー松居直美企画「言葉は音楽 音楽は言葉」Ⅱ
パイプオルガンとパントマイムが紡ぐ物語
【日時】2020年 2月22日(土)14:00開演
【出演】オルガン:青木早希
マイム:マンガノマシップ(サラ・マンガノ&ピエール=イヴ・マシップ)
【曲目】第1幕《時代を超えたディアローグ》
~バロック「歪んだ真珠」の弾き比べ~
ルイ・マルシャン:グラン・ディアローグ 他
~仮面たちの時空飛行ダンス~
バルトーク/イゾワール:ルーマニア民俗舞曲から 他
~空を舞う風、鳥、そして聖霊~
メシアン:聖霊降誕祭のミサから 他
第2幕《言葉に秘める音と動き》
アラン:3つの舞曲から「喜悦」「愁傷」「闘争」
柿沼唯:蓮花
エスケシュ:オルガンのための詩曲から「誕生の水」「仮面」「希望へ」