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言葉がないからこそある無限の可能性―青木早希(オルガン)

「音楽と言葉」を追求するホールアドバイザー松居直美による企画公演「パイプオルガンとパントマイムが紡ぐ物語」(2月22日)では、オルガンとマイムが出会い、物語を紡ぎます。“無言”でありながら多くを語る芸術、オルガンとマイム。このユニークなコラボレーションから、どんな“言葉”が生まれるのでしょうか。オルガニスト青木早希が、2月の演奏会への思いを語ります。

言葉がないからこそある無限の可能性
オルガニスト 青木早希

マイム、オルガン。共に『言葉』を使わず、『言葉』を表現する芸術です。出会う機会の少ないこの2つの姿が一体となるとき、はたしてどんな芸術が生まれるのでしょうか。

まだ涼しく風の強い初夏のパリ。初めてお会いしたサラは、ちょうど前日に風邪をこじらせてしまい、たくさん着込んだ姿で、それでも笑顔でアパルトマンに迎えてくれました。すぐに打ち解け、マイムとオルガンのコラボレーションについての様々なアイディアを話し合い、頭がパンパンに膨れ上がり今にも破裂しそうな思いで、帰りのメトロに乗り込んだ覚えがあります。そんなたくさんのアイディアを練り上げてできたのが今回のプログラム。

第1幕は≪時代(とき)を超えたディアローグ≫と題して、長い歴史を持つと同時に、現代を生きるオルガンという楽器を最大限に活かしたプログラムです。ルネサンス期のスペインの作曲家A.カベソンからバロックの父J.S.バッハ、そして20世紀の大作曲家O.メシアンまで一気に飛行します。国も時代も違ったこれらの巨匠たちが、仮面やマリオネット、そしてオルガンを通して対話しながら、長い長い時空の旅に出ます。

第2幕は≪言葉に秘める音と動き≫と題して、現代の作曲家たちに焦点をあてます。それぞれの楽曲には明確なタイトルがあり、作曲家たちは皆、独自の思いやメッセージを曲に託します。それがJ.アランによる「3つの舞曲」の“喜び”や“悲しみ”といった感情であったり、柿沼唯の「蓮花」のように具体的な美しい対象であったり……。歌曲の中の歌詞のように具体的な言葉をもつものに比べ、言葉の少ないマイム、そしてオルガンはむしろ無限の可能性を秘めているともいえます。そんな寡黙な作品たちに、どのように新たな命を吹き込むか。奏でる音色やそれに伴う呼吸、そしてひとつひとつの体の動きが、一音一音に秘められた言葉をどこまで表現できるか。常にコンソール(鍵盤)から離れられないオルガニストにとって、そこから一歩踏み出し、空間を意識する、という新たな課題も突き付けられました。多くの疑問や戸惑いを感じたものの、音楽に対する新たな見方が生まれたこのマイムとオルガンの試み。言葉のない作品だからこそ生まれる限りない可能性は、それを表現しようとする私たちだけでなく、それを受け止める観客の皆様にも広がっています。その無限の解釈の可能性、そして豊かなイメージを、マイムとオルガンにのせて、皆様自らの言葉で綴ってみてはいかがでしょうか。

ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「スパイラル」Vol.63(2020年1月1日号)より転載/編集:榊原律子

ホールアドバイザー松居直美よりメッセージ

表現芸術は、いわばコミュニケーション・ツールのひとつです。神の言葉から人の感情まで、目的と内容は様々ですが、いずれも発信する側と受け取る側の間のコミュニケーションがあって成立します。一番直接的なツール「言葉」を持たない音楽と、言葉そのものである演劇が出会うことでの相乗効果を期待した去年に対し、今年は音楽とマイムという、言葉を持たないもの同士による化学反応が生む発信力を受け取っていただければ幸いです。

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ホールアドバイザー松居直美企画「言葉は音楽 音楽は言葉」Ⅱ
パイプオルガンとパントマイムが紡ぐ物語

【日時】2020年 2月22日(土)14:00開演
【出演】オルガン:青木早希
    マイム:マンガノマシップ
【曲目】第1幕《時代を超えたディアローグ》
    ~バロック「歪んだ真珠」の弾き比べ~
    ルイ・マルシャン:グラン・ディアローグ 他
    ~仮面たちの時空飛行ダンス~
    バルトーク/イゾワール:ルーマニア民俗舞曲から 他
    ~空を舞う風、鳥、そして聖霊~
    メシアン:聖霊降誕祭のミサから 他

    第2幕《言葉に秘める音と動き》
    アラン:3つの舞曲から「喜悦」「愁傷」「闘争」
    柿沼唯:蓮花
    エスケシュ:オルガンのための詩曲から「誕生の水」「仮面」「希望へ」

公演詳細はこちら

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