チャイコフスキー:交響曲第5番
2020.01.15
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東京交響楽団・首席トランペット奏者 澤田真人さんが語る「名曲のツボ」は、チャイコフスキーの交響曲第5番。この曲に求められるトランペットの役割や、音のイメージについて語っていただきました。コンサートの前にぜひご覧ください!
「チャイ5」の音のかなめはトランペット!
ロシアの音を目指して吹いています
首席トランペット奏者 澤田真人
Photo by N.Ikegami
チャイコフスキーというとトランペットが派手に鳴っているイメージがあるかもしれませんが、交響曲第5番はトランペットが演奏している部分は実はそれほど多くなくて、ソロはほとんどありません。それでも演奏は大変です。というのは、求められるのがほとんど大きな音ばかりだからです。
この曲でのトランペットの使われ方は、オケ全体が大音響のときに“決め”として吹くことが多いですね。しかも、その大音響で演奏するところへ向かってトランペットが先陣を切っていく場面も多い。ですから、みんなの道しるべとなるように吹いています。
そのなかでトランペットといえば、第4楽章の最後です。曲が盛り上がってきたところでトランペットのメロディが始まります。しかも、音量はfff。勝利の行進のような気持ちで吹き始め、体力が一番キツイところでフォルテ4つになって終わります。最後の2~3分は耐久力的に大変ですが、一番のクライマックスですから、かっこよく吹きたいですね。
チャイコフスキーを演奏するときは、できるだけロシアのオーケストラの録音を聴いて、音の張り具合や旋律の歌わせ方などを勉強します。ロシアの音楽を吹くときは、少し暗めの音色、上に広がる音というより、下に広がる重心の低い音色を意識しています。ロシアのオケはB管の楽器をよく使っていて音が太いんですよ。日本のオケではC管を使うことが多いので音色が少し明るいのですが、それでもロシアのオケのような音を目指して吹きます。音色や音の表現のイメージは大事です。それがないと、その曲の雰囲気は出せません。また、トランペットがそのイメージを示さないと、ほかの金管楽器がどう吹いていいかわからなくなってしまう。つまりトランペットの音が、オーケストラ全体のカラーを作りあげていきます。
最後以外にもトランペットは、第4楽章のテーマが戻ってきた後、2番トランペットが付点リズムで吹き始めるところは、意外と難しい箇所です。そのあと、木管楽器が主旋律を吹く裏でトランペットはアルペッジョのような音型を吹き、弦楽器のメロディのときはオクターブの跳躍音型を吹くのですが、これも大切に演奏します。
個人的に交響曲第5番で好きな部分は、第2楽章のホルンのソロ。とてもかっこいいですね。いいなぁと思いながらいつも聴いています。第3楽章のワルツも好きです。
ところで、第4楽章最後でテンポが速くなる前、楽譜には実音「ミーミーミーミーミーミソ♯ー」と書かれていますが、ヴァイオリンのメロディと同じ「ミーファ♯ーソ♯ーラーシーミソ♯ー」と吹くこともあります。音の変更は、指揮者から指示されることもありますし、指示がなくても自分で変えることも。トランペットが旋律を吹けばテンションが上がりますからね。名曲全集ではどう吹くか、ぜひ注目してください。
ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「スパイラル」Vol.39(2014年1月1日号)より転載/取材 榊原律子
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ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第153回
【日時】2020年 1月19日(日)14:00開演
【出演】指揮:ベン・グラスバーグ ピアノ:上原彩子
【曲目】グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番
チャイコフスキー:交響曲第5番