松岡あさひの新曲「アルタバン」
2018.12.16
2018年12月22日に開催されるクリスマスコンサートはヘンリ・ヴァン・ダイクの書いた物語「もう一人の博士」を題材にしています。
コンサートと演劇を有機的につなぐ柱として、松岡あさひさんに新曲を書きおろしていただきました。
新曲のタイトルは、「アルタバン」。「もう一人の博士」の主人公の名前です。
4曲で構成される組曲のような形になっており、コンサート全体を通して、テーマとなるメロディがシーンに合わせて様々に変化し、繰り返し演奏されます。音楽で物語を伝える、重要な要素のひとつとなっています。
楽譜を受け取った松居直美さんは
「それぞれ、色々な工夫が凝らされていて、大変楽しく練習しています。松岡さんの作品は、何度でも繰り返して練習したくなる魅力を持っています。コンサートが楽しみです。」
とコメントされています。いったいどんな作品なのでしょうか?
1曲ずつ、松岡さんにご紹介いただきました。
【第1曲】
今回の作品は普段の私の曲と比べて、西洋音楽の歴史の中で用いられてきた様式を、より取り入れた形で作曲しました。
第1曲は「アルタバン」のテーマとなるものです。曲のスタイルとしては、古くからクリスマスの音楽として用いられてきたパストラーレ(羊飼いの音楽)を用いました。
まず、アルタバンに先立ってイエスに会いに行った三人の博士が、常に三声で動くモティーフで示され、その後を追うようにアルタバンのテーマが提示されます。
その他にも、今回のコンサートで演奏される曲がそこかしこに隠され、先取りする形で現れる、序曲のような性格の作品となっています。【第2曲】
この曲は、アルタバンが絶望している状況で演奏されることから、ラメント(嘆き、憂いの)バスを用い作曲しました。
主旋律の音型はアルタバンのテーマに基づいていますが、より自由な形で扱われています。そして中間部では、いつの日か与えられるであろう慰めが暗示されるかのように、コラール「われら悩みの極みにありて」のメロディが現れます。【第3曲】
三博士やイエスの後を追いつづけたアルタバンのように、西洋音楽においてはカノン(追走曲)やフーガ(遁走曲)など、主題の後を追い模倣する形式が用いられてきた歴史があります。
この場面では、原作中の言葉である「いったりきたりする杼よりもはやく、年月はすぎ去っていった」から着想を得て、 ジグザグした動きや、クロマティックな推移などを用いた小フーガとしました。 主題はもちろんアルタバンのテーマから得ています。
今回の作曲の中では、形式だけでなく和音の使い方なども含めて、最もバロックの(フレスコバルディやバッハの)スタイルに近い作品です。【第4曲】
再びパストラーレが戻ってきます。しかし、今では優しげな光が、そしてイエスの慈愛に満ちた眼差しがアルタバンを静かに包んでいます。
アルタバンのテーマに内包されていたコラール「神の御業は全て善し」が完全に姿を顕し、ソプラノが高らかに歌い上げます。
そして、この物語を見守ってきた星たちは、変わることなく清かに光を放っています。
松岡さんの作品は、コンサートの冒頭、前半の終わり、2部の後半、そしてフィナーレに演奏されます。
この他にも、このクリスマスコンサートでは、J.S.バッハ作曲「高き天より我は来たり」によるカノン風変奏曲、ブクステフーデ作曲「暁の星はいと美しきかな」、そしてソプラノの作品としてブリテン作曲「鳥たち」、ラター作曲「ある木に咲いた花」と、たっぷりと音楽をお楽しみいただけるコンサートとなっています。
松岡さんの作品と共に、音楽、お話をじっくりと味わうクリスマスをお楽しみに。
松岡あさひ(作曲・編曲)
1985年ドイツ・デュッセルドルフにて作曲家の両親のもとに生まれ、幼少よりピアノ、作曲を学ぶ。徳島県立城南高校卒業。東京藝術大学音楽学部作曲科首席卒業。同時にアカンサス音楽賞、同声会賞受賞。同大学院音楽研究科修士課程作曲専攻修了。2011年奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門第1位。2012年より、文化庁新進芸術家海外研修員として、ドイツ・シュトゥットガルト音楽演劇大学に留学し、作曲のほかオルガン演奏法を学ぶ。作曲家としてはピアノ、オルガン、チェンバロを含む鍵盤楽器のための作品や歌曲・合唱曲を中心に多数の委嘱を受け活動しており、日本国外でもドイツと主とするヨーロッパ各地で作品が演奏されている。また、声楽を中心とする分野の伴奏者としても、多くの演奏家の信頼を得ている。現在、東京藝術大学演奏藝術センター教育研究助手。日本ドイツリート協会会員。
MUZAパイプオルガン クリスマス・コンサート2018
~言葉と音楽で彩るファンタジー「もう一人の博士」~
2018年 12月22日 (土) 14:00開演(13:30開場)