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ストラヴィンスキー:ペトルーシュカ(1947年版)

ミューザ川崎シンフォニーホールと東京交響楽団がお贈りする「名曲全集」の聴きどころを演奏者の視点から語る好評連載「名曲のツボ」。今回は、東京交響楽団フルート・ピッコロ奏者の高野成之さんに、『ペトルーシュカ』の聴きどころを語っていただきました。

オーケストラそれぞれの楽器がソロで大活躍!“ペトルーシュカの死”をピッコロに吹かせる作曲家の技

フルート&ピッコロ奏者
高野成之

ストラヴィンスキーの三大バレエ「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」は、ディアギレフ率いるバレエ・リュスで上演するために作曲されました。「火の鳥」は勧善懲悪の世界、「春の祭典」は生け贄を捧げる原始宗教の物語に対して、「ペトルーシュカ」は魂を持った人形の物語。かわいらしいけれど、ハッピーエンドではないのがおもしろいところです。音楽に関しては、「火の鳥」の根底にあるのはラヴェルやドビュッシーの印象派の世界、「春の祭典」は調性がもはや重要でなくなり、さらに異なる拍子が同時に鳴るポリリズムの音楽です。「ペトルーシュカ」は作曲順だけでなく音楽的にも2作の間に位置するもので、古典派の要素が入りつつもウィットに富み、かつ美しく、とても興味深い作品です。バレエの場面転換にあたる部分で打楽器が鳴り続けるのもおもしろいですね。

聴きどころは、各楽器のソロです。ピアノが協奏曲のように活躍することは有名ですが、オーケストラの各楽器もソロで大活躍します。フルートは、人形が動き出す前のソロがかっこいいですよね。第3部のトランペットのソロもかっこいい。どの楽器のソロもかっこいいですが、ピッコロにあてがわれたソロは、ペトルーシュカの死の場面。なぜこれをピッコロが吹くのか、とても不思議です。というのは、このメロディはフルートで普通に吹ける音域なのです。そんな音域をピッコロで吹くと、よく言えば素朴な響きになり、悪く言えば音が鳴りきらない。ピッコロ吹きにとって嫌な音域なのです。「ペトルーシュカ」初演の頃のパリのフルートは、現在のシステムと変わりありませんから、ストラヴィンスキーは楽器の特性を分かってピッコロに吹かせているのです。ペトルーシュカが弱っていく姿を表現するためなのでしょう。さらに、楽譜上の指示はp(弱く)だけなので、どう表情をつけようか毎回悩みます。

「ペトルーシュカ」の冒頭はフルート2本のユニゾンによるメロディで始まりますが、実は完全なユニゾンではなく、延ばす音や下行音型は1番フルートだけで吹くようになっています。つまり、楽譜通りに吹けば音量の強弱が物理的につくので、デクレッシェンド(だんだん弱く)などの指示はありません。こんな書き方をするのはストラヴィンスキーだけ。天才ですね。

「ペトルーシュカ」といえば変拍子ですが、曲が始まって間もなく、弦楽器が4分の3拍子を奏でるなか、ピッコロ、フルート1番、オーボエ1、2番、ピアノが7連符を演奏します。この楽器だと音の立ち上がりが、ピアノ、オーボエ、ピッコロは速く、フルートは遅い。ストラヴィンスキーは知っていて書いたのでしょう、本当に絶妙なオーケストレーションです。ミューザで演奏するとさらに立体的になりますので、ぜひ注目してください。

第3部、ムーア人とバレリーナが踊るワルツではフルートとトランペットが掛け合いますが、ここは伴奏のファゴットの表現が指揮者によって変わるのでおもしろいです。続いて、フルート2本がチャーミングなワルツを吹きますが、合いの手のトランペットはまるでチャイコフスキーの「白鳥の湖」や「眠れる森の美女」のパロディのよう。また、曲を通してフルートとピッコロは一緒に動くことが多く、「くるみ割り人形」の“葦笛の踊り”を髣髴とさせます。チャイコフスキーがもう少し長生きしていたら、もしかしたらこんな曲を書いていたのかも、など2人の共通点を見つけながら聴くとおもしろいかもしれません。

三大バレエを一挙に演奏する9月の「名曲全集」ではストラヴィンスキーの3作を通して、その音楽の変化と、見事なオーケストレーションをぜひ味わってください。

ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「スパイラル」Vol.57(2018年7月1日号)より転載/取材・榊原律子

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ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第140回

【日時】2018年 9月9日(日)14:00開演
【出演】指揮:飯森範親 ピアノ:高橋優介*
【曲目】《オール・ストラヴィンスキー・プログラム》
組曲「火の鳥」(1945年版)
ペトルーシュカ*(1947年版)
春の祭典

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