チェロ奏者 イェンス=ペーター・マインツ インタビュー
2017.10.12
週末の朝にモーツァルトを楽しむ1時間コンサート「モーツァルト・マチネ」。
ジョナサン・ノットが指揮する10月の公演には、世界的なチェロ奏者イェンス=ペーター・マインツが登場します。
東京交響楽団とは2013年6月に共演し絶賛されたマインツが今回演奏するのは、モーツァルトにとって尊敬する作曲家であり友人であるハイドンのチェロ協奏曲第1番。
ソリストとしてはもちろん、ルツェルン祝祭管弦楽団ソロ・チェロ奏者としても活躍するマインツに、作品の魅力について語っていただきました。(取材・文/榊原律子)
ハイドンは、私の演奏スタイルにぴったりな作品
東京交響楽団とは2013年に共演し、プロコフィエフの「交響的協奏曲」を演奏しました。キタエンコさんの指揮でロシア音楽を演奏できた本当に幸せな演奏会で、東京交響楽団の透明感と繊細なニュアンスに富んだ演奏、ミューザ川崎シンフォニーホールの素晴らしい響きもとても印象に残っています。
プロコフィエフは大編成のパワフルな曲でしたが、10月に東京交響楽団と再共演する曲は、小編成のハイドンのチェロ協奏曲第1番です。ハイドンのチェロ協奏曲は、個人的な思い入れもある大好きな作品で、私の演奏スタイルにもぴったりな曲ですので、今回演奏する機会をいただけて嬉しく思っています。
おそらく私の世代はみんなそうだと思うのですが、チェロ協奏曲第1番は、ロストロポーヴィチの独奏、ブリテンの指揮の録音を幼い頃から聴いて育ちました。ロストロポーヴィチのヴィルトゥオージティに圧倒され、特に最終楽章はとても速いテンポで正確に演奏するテクニックに大いに刺激されたものです。ちなみに私の師匠ダーヴィド・ゲリンガスはロストロポーヴィチの一番弟子のような存在なので、私はロストロポーヴィチとつながりがあると思っています。でも、のちに自分自身が弾くようになったときは、当然ながら自分のスタイルを模索しました。ロストロポーヴィチだけでなく、さまざまな演奏、特に古楽器の演奏家からも多くの影響を受けました。
「オーケストラと一緒に演奏する」意識が大事
ハイドンは、アイゼンシュタットのエステルハージ家に約30年も仕え、エステルハージ家の楽団が演奏する作品を次々に作曲しました。静かな片田舎で作曲に没頭したおかげで、独自の音楽を発展させることができ、その結果、交響曲、弦楽四重奏曲、協奏曲などあらゆるジャンルのスタイルを確立させたというハイドンの人生は実にユニークです。チェロ協奏曲第1番は、楽団のチェロ奏者ヨーゼフ・フランツ・ヴァイグルのために1760年代に作曲しました。ヴァイグルは同僚と殴り合いの喧嘩もしたという直情型の性格だったそうですが、第1番の燃え上がるような最終楽章は、もしかすると彼の性格を表しているのかもしれませんね。いずれにしても最終楽章は技巧の可能性の極みまで求められるような楽章です。第1、2楽章は驚くほどの深みとドラマを感じさせ、特に第2楽章は嵐が突然吹き荒れるような瞬間もある、コントラストにあふれた大変魅力ある作品です。
私はルツェルン祝祭管弦楽団でも演奏していますが(スケジュールの都合上10月の日本公演は出演しません)、音楽監督だったクラウディオ・アバドさんは「お互いに聴き合いなさい」と常に言っていました。これは、オーケストラだけでなくすべての音楽に言えることです。演奏はコミュニケーションですから。ハイドンのチェロ協奏曲は、小編成オーケストラのための作品なので「オーケストラと一緒に演奏する」という意識が大事です。東京交響楽団とのコミュニケーションを楽しみにしています。
ジョナサン・ノットさんとは今回初めての共演です。幅広いレパートリーを持ち、演奏スタイルに対して非常にオープンなマエストロだとうかがっているので、どんなハイドンになるか今から待ち遠しいです。
(友の会会報誌『スパイラル』Vol.54 より転載)
2017年 10月14日 (土) 11:00開演
モーツァルト・マチネ 第31回
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