ミューザ川崎シンフォニーホール

COLUMN /
INTERVIEW

コラム・インタビュー

ミューザからつながる文化と笑顔—
「ミューザの日2024」一日体験レポート

取材・文:長井進之介(音楽ライター)

 「ミューザの日」は、ミューザ川崎シンフォニーホールの開館記念日と川崎市の市制記念日(7月1日)を祝う地域交流イベントです。この日は川崎市立の学校はお休み。せっかくの記念日なのでホールへ来てもらおう!と2013年にスタートしました。コンサートのほか、地域の企業や団体の支援や協力のもと、ミューザおよび川崎駅周辺にて、ご家族で楽しめる様々な催しが行われています。

 開催12年目を迎えた今年は川崎市市制100周年&ミューザ開館20周年という記念の年でもあります。今回、私はこのイベントに一日参加し、様々なイベントとコンサートを通して、ミューザを中心としたイベントが川崎市を盛り上げる重要な役割を担っていることを実感しました。

「ミューザの日」を祝って各社のマスコットキャラクターが集合!
写真左から)フクスケ君(川崎幸病院)、かわさきミュートン(音楽のまち・かわさき)、エネゴリくん(ENEOS)、りんたん(川崎鶴見臨港バス)

 当日の朝、川崎駅を降りてミューザに向かうと、すでに多くの人々が集まっています。「ミューザの日」は朝10時からワークショップや体験イベントなどがはじまっており、各ブースにはご家族やお友達同士のグループなど、たくさんの人々が集まっています。各ブースは「ミューザの日」の想いに賛同した地元企業や団体の方々が出展しているものであり、アクセサリーづくり(地元NPO法人のエミフルによるワークショップ)、手描友禅と食品サンプルづくり(かわさきマイスターによるものづくり体験)、いろいろねいろ(川崎市パラムーブメント推進室によるワークショップ)、注射と包帯巻き(みんなの健康塾〔川崎幸病院〕の看護師指導による体験)など、 “つくる”、“学ぶ”という経験を通して、子供たちが成長していく様子が短い時間の中で感じられました。

「ジュニア・プロデューサー」プログラムの第7回の会議の様子
川崎市が認定する優れた職人「かわさきマイスター」から教わるものづくり体験は毎年大人気
「ジュニア・プロデューサー」プログラムの第7回の会議の様子
いろいろねいろ(川崎市パラムーブメント推進室)は、言語や障害の有無を問わず参加できるワークショップ/
注射と包帯巻きでは現役看護師が指導

 他にも、川崎フロンターレ、川崎鶴見臨港バスやJAセレサの朝採れ野菜など地元企業がそろったマルシェ、ホテルメトロポリタン川崎&川崎日航ホテルによる縁日、川崎駅周辺6施設9か所(ミューザ川崎・ラゾーナ川崎プラザ・川崎ルフロン・川崎アゼリア・アトレ川崎・川崎ダイス・川崎モアーズ)をめぐるスタンプラリーと、“川崎ならでは”のイベントが満載。「JRトレインフェスタ」(JR東日本presents)や川崎日航ホテルのチャペルで行う「憧れの花嫁さんになろう!」(川崎日航ホテルpresents)といった大掛かりな体験イベントもあり、ミューザが地域や企業と常に深い連携がとれていることが窺えます。また「劇団風の子」による舞台(ENEOS presents)も行われており、身体表現と歌によって作り上げられる世界に子どもたちは目を輝かせていました。

チラシ画像
多くの人が集う川崎JAセレサ朝採れ野菜の販売/ホテルメトロポリタン川崎&川崎日航ホテルによるホテル合同縁日
チラシ画像
JRトレインフェスタ(JR東日本presents)/赤ちゃんと一緒に楽しめる「劇団風の子」による舞台(ENEOS presents)

 また、ミューザの日といえば!の公演を2つ鑑賞しました。まずはジュニア・プロデューサー企画コンサート「ダダダダーンコンサート~音楽の扉がいま 開かれる~」(出演:東京交響楽団メンバーによる弦楽四重奏)です。印象的なタイトルは誰の作品がメインになっているのかがすぐにわかりますし、「どんなコンサートなんだろう?」というワクワクを誘ってくれます。実際に公演はたくさんの楽しさにあふれたものとなっていました。

 このコンサートでは、川崎市内小学校4~6年生の9名からなる第12期の小さなプロデューサーたちが約3か月にわたり企画から広報、運営まで全て行っています。印象的で心躍るタイトルも子供たちによるもの。終演後にインタビューしたところ、ふっと沸いてきたものからみんなのアイディアが重なって生まれたものだということです。

「ジュニア・プロデューサー」プログラムの第7回の会議の様子

 ミーティングを重ねて細部までつくりあげられたコンサートは、曲目や曲順、プログラムの文字の大きさ、子供連れ向けのシートの配置まで全てジュニア・プロデューサーたちのアイディアが反映されています。私は事前にそのミーティングを拝見しましたが、ひとりひとりが自分の意見をしっかりと伝えながら、お互いの意見も尊重し合うことで成長を遂げながらコンサートをつくりあげていました。だからこそ全員が「お客様に心から楽しんでいただきたい」という想いにあふれており、当日のレセプショニストとしてのご案内、司会進行などからもそれが伝わってきました。スクリーンにベートーヴェンの顔を映し出し、ベートーヴェンがコンサートを聴いている……という設定もとても楽しいものでしたし、ベートーヴェン役を務めたプロデューサーの熱演も素晴らしかったです。一つのコンサートの制作を通して9名の子供たちは大きく成長していたはずです。

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たくさんの経験と成長の機会がつまった
「ジュニア・プロデューサー」と「リトルミューザ」

 もう一つは「ミューザの日」メインイベント、「アニバーサリー・コンサート」です。ホール開館20周年にちなんで、昨秋に20歳前後の若手プロデューサーを募集。プレゼンテーション審査で選ばれた2人が企画制作を行いました。選ばれたのは市川モナさん(担当:プログラムコンセプト・公演企画)と森照覚さん(担当:トータルプロダクション)のおふたりです。音楽、そしてコンサートを通してお客様にメッセージを伝えたいという熱い想いを持つおふたりによって作り上げられたコンサートは、川崎という都市が世界と深くつながりをもっていること、各国の音楽の魅力を改めて実感できるものとなりました。

「ジュニア・プロデューサー」プログラムの第7回の会議の様子
写真左から)森照覚、大木麻理(パイプオルガン)、市川モナ、桜井しおり(ナビゲーター・脚本)、小川典子(ピアノ)、原田慶太楼(指揮)、中村拓紀(合唱指導)

 プログラムは東京交響楽団(指揮:原田慶太楼さん)による、川崎市と姉妹・友好都市・友好港を結ぶ海外の都市にまつわる名曲。ミューザ川崎シンフォニーホールが東京五輪・パラリンピックを契機に制作し、コロナ禍の影響によりオンラインでのみの発表となっていた合唱曲「世界中から こんにちは そして ありがとう」のオーケストラ版で輝かしく幕を開けます。それに続いて、モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」から序曲(オーストリア・ザルツブルク市)にエルガーの「威風堂々」第1番(イギリス・シェフィールド市)、またホールオルガニストの大木麻理さんの独奏でブクステフーデの「プレリュードハ長調」(ドイツ・リューベック市)など、桜井しおりさんがそれぞれの国のあいさつや特徴などを楽しく紹介しながらのナビゲートのもと、9曲(9都市)が演奏されていきました。

 原田さんの指揮は非常に色彩豊かで、それぞれの国の特徴を、演奏を通して鮮やかに示してくれました。そして最後には、「世界中から こんにちは そして ありがとう」を市内の小中高生によるスペシャル合唱団と、ホールアドバイザーでもある小川典子さんのピアノと共に、客席も一体となってエネルギーにあふれる歌声と演奏をホールいっぱいに響かせました。

アドバイザーのあやかさんとれんかさんインタビュー様子

 なお、「世界中から こんにちは そして ありがとう」は、年齢・国籍・障害の有無に関係なく、「だれもがいっしょに歌える・表現できる歌」をコンセプトに作曲されたものです。今回は来場者も合唱に参加。開演前にはリハーサルの時間もあり、演奏者と来場者がひとつになって、音楽を楽しみ、世界各国の言葉(の歌詞)によってつながるという感動的な体験の時間が設けられたのでした。私も世界の言葉を大きな声で発し、会場にいるみなさまとの一体感を得るという貴重な時間を過ごすことができました!

 さらにこの「アニバーサリー・コンサート」では「鑑賞サポート」が充実していました。出演者のお話、開場中のアナウンスなどを文字にしてタブレットで表示する「リアルタイム字幕」や手話による通訳、音をからだで感じるインターフェース「Ontenna(オンテナ)」の設置など、あらゆる方が音楽を心から楽しむためのサポート体制が整っていたのです。さまざまな困難のためにコンサートに足を運ぶことが難しい方が音楽を楽しめるよう、近年さまざまな音楽ホールがとりくみを行っていますが、今回の公演ではミューザならではの視野の広く行き届いた心くばりが強く感じられました。またそれらを通して音楽を楽しむお客様の笑顔がとても印象的でした。

アドバイザーのあやかさんとれんかさんインタビュー様子

 「ミューザの日」を一日見学し、ミューザという空間が、素晴らしい音楽ホールを有しているというだけでなく、川崎という街の文化、そして人々の笑顔の集まる中継地点である、そして「ミューザの日」はその象徴といえるでしょう。今後も川崎市と手を携えた企画や挑戦に期待が膨らみます!!