COLUMN
INTERVIEWコラム・インタビュー
たくさんの経験と成長の機会がつまった
「ジュニア・プロデューサー」と「リトルミューザ」
〜コミュニティ・プログラム紹介〜
取材・文:長井進之介(音楽ライター)
世界でも有数の音響を誇り、数多くのアーティストから愛されるミューザ川崎シンフォニーホールは、魅力的な公演やイベントはもちろん、多彩な企画でも注目されています。そのひとつが2013年から開始したプログラム、「ジュニア・プロデューサー」です。⼀般公募で集まった川崎市内の⼩学校に通う4〜6 年⽣が、コンサート当⽇まで仲間とアイディアを出し合い、 コンサートの企画・運営・広報などを⾏うもの。これまでに延べ110人の“プロデューサー”を輩出してきた、ミューザの名物企画です。
2024年はたくさんの応募の中から、最終9名が集まり、6月29日の「ミューザの日」に向けてコンサート制作を行いました。今年の小さなプロデューサーたちのコンサートタイトルは「ダダダダーンコンサート~音楽の扉がいま 開かれる」。ベートーヴェンの「運命」交響曲をはじめ、モーツァルトやブラームスの作品に映画音楽や「ドラえもん」の主題歌など、さまざまなジャンルの楽曲がバランスよく散りばめられたコンサートとなりました。当日の模様は別途レポートしますが、進行にも工夫が凝らされたほか、子どものためのスペースが設けられるなど、来場したすべてのお客様がみんな笑顔になれるように、という心が込められた楽しいコンサートになっていました。
このコンサートの2週間前、制作の終盤となる「ジュニア・プロデューサー」第7回の会議を見学しました。
プロデューサーの皆さんは全員が名刺を持っており、まずは名刺交換をさせていただくところからスタート。挨拶や渡し方など、小学生とは思えない立ち振る舞いに驚きました。そのあとはコンサート当日の役割分担についての話し合いが始まりました。それぞれが当日担当したい役割を決めていきます。全員が積極的に挙手、発言し、話し合いが円滑にすすむよう全員が協力しあう様子がうかがえました。希望者が重なったところは、やりたい理由を発表したり、話し合いを行い、スムーズに当日の役割分担が決まりました。多くの人がいるなかで自分の意見や想いを伝えるというのは簡単なことではありませんが、その役割に対する想いや情熱をしっかりと話していました。
そのあとは「企画班」、「広報班」、「運営班」の3つの班に分かれ、最後の調整に。当日の台本の最終確認、配布するプログラムのチェック、案内係の配置決めなどが行われましたが、全員が自分の役割に誠実に、責任をもって務めていました。特に配布プログラムのチェックでは“お客様目線”に立って、「どうすれば見やすいか」「注意事項をしっかり伝えるにはどうすればいいか」などの観点から文字の大きさ、配置など様々な角度から検討。ジュニア・プロデューサーの皆さんがプログラムのレイアウトにこだわっていたのには理由があります。コンサートを楽しんでいただくのはもちろんですが、そのためにお客様一人ひとりがルールを守って鑑賞することの大切だと考えていたからでした。そのためには注意書きが読みやすい必要があり、その一方で肝心の曲目などもわかりやすく伝えたい。それを両立させるために試行錯誤を重ねていたのです。幅広い視野からコンサートを作り上げようとするその姿勢にはとても心動かされるものがありました。
「ダダダダーンコンサート」公演後にジュニア・プロデューサーのみなさんにお話をうかがったところ、全員、音楽が大好きで、公演をつくりあげることに興味があり応募したとのことでした。また、2回経験している参加者もおり、「一度やるとまたやりたくなる」と目を輝かせて話してくれました。みんなで話し合いながら協力してつくりあげること、当日お客様からあたたかいお言葉や笑顔をいただけることがその理由のようです。実際にコンサートの開場中は、ジュニア・プロデューサー全員が積極的にお客様に声をかけてご案内し、コミュニケーションを取っている姿が見られました。そして開演中は工夫を凝らしたプログラムと進行によるコンサートで筆者含めたくさんの人々の笑顔が生まれた時間となり、音楽を心から楽しむことの喜びを改めて感じることができました。
そんな「ジュニア・プロデューサー」を卒業すると…それで終わりではないというのがすごいところ。もっとやりたい!という卒業生たちの声に応えて、経験者のための高校生までの企画チーム「リトルミューザ」もあるのです(2017年にスタート)。こちらはミューザの小さなスタッフとして、ジュニア・プロデューサーへのサポート活動や、パブリック・プログラムの制作を行っています。今年は「リトルミューザ」も卒業した大学生のおふたり、れんかさんとあやかさんがアドバイザーに就任!おふたりはジュニア・プロデューサーでの経験が学校生活やその他の活動にも活きているということで、お話をうかがいました。
あやかさんは2015年、れんかさんは2016年からジュニア・プロデューサーに参加。卒業後、リトルミューザの第一期メンバーとして昨年まで活動されていました。おふたりとも音楽、そしてミューザで仲間たちとコンサートやイベント制作をすることが心から大好きだと話してくれましたが、どんなことが活動のモチベーションになっていたのでしょうか。
れんか「作り上げてきたプロジェクトが終わった後、大人スタッフの皆さんも交えて活動報告をするのですが、そのときに頂けるフィードバックがとてもあたたかく、達成感がありました。もちろん大人に助けていただくことも多いのですが、基本的にはわたしたちが中心に作っていくものなので、愛着も大きいですし、“次年度も続けよう!”という想いが自然と出てきます」
あやか「何かを作り上げたり、そのために話し合ったり協力したり……という行為そのものに魅力を感じます。同世代の仲間たちと大人たちが仕事をしている空間に入ってタスクを整理して、問題点を洗い出して解決していくということが本当に楽しくて。貴重な経験をさせていただきました」
おふたりとも今回のインタビューの受け答えを見ていてもしっかりと自分の意見を整理して伝えて下さるので、とてもお話がしやすく驚きましたが、こういったところもジュニア・プロデューサーやリトルミューザでの経験が大きかったようです。
れんか「敬語、提出物、そしてプレゼンなど、大人の皆さんの中でコミュニケーションのために必要なスキルを学ぶことができました。小学生の頃からこんな経験ができるなんてなかなかないことですよね。子どもの頃から周りの子より成長できる機会が多かったなと感じることが多々ありました。だからこそ、誰かが困っていたり、問題があったときに助けることもできました。ミューザでの経験がなかったらいまの私はなかったと思いますし、私の根幹を作ってくれたといっても過言ではありません」
あやか「私は小・中での委員会や高校での文化祭の実行委員、年鑑編集委員長など、リーダーを務める機会が多かったのですが、そのときに責任感をもって取り組むことができたのはミューザでの経験があったからです。周りに指示を出したり、求められていることに対してすばやく応えることもでき、各プロジェクトを円滑に進めることができました」
おふたりはミューザの活動をきっかけに、落語家やスポーツ選手へのインタビューやイベントの取材なども行っています。ひとりの“仕事人”として大人に向き合うことができているのはやはりミューザで培った経験が大きいと話してくれました。これからアドバイザーとして、「リトルミューザ」の子供たちの活動を“見守る”という立場で支えていくことになります。心強い先輩たちのサポートのもと、今後もますます「リトルミューザ」から頼もしい存在が生まれてくれることでしょう。